おとひめつづりのだいぼうけん
ん……?
知らない天井。慣れないベッドの感触。ここはどこ?
乙姫つづりは身を起こした。
そこは典型的な『中世ファンタジー風世界の木造家屋の中』だった。
そうだ。ヒメ、異世界に来たんだった。
ここはクロレ・キッシーの世界。自分は砂漠で眠りについて。そして……。
部屋の扉が開いて、赤いエプロンをした15歳ほどの少女が入ってきた。
そしてこちらを見て言った。
「パパ!パパ!知らない子が目を覚ましたよ!」
「私はユーネパパ。この子はユーネ。砂漠で倒れていたあなたを、ここまでお連れしました」
少女の父親という、温厚そうな中年男性が挨拶した。
ユーネは父の後ろに隠れて、目を輝かせている。
「あ、乙姫つづりと申します」
「つづりさん?変わったお名前ですね」
「ユーネパパさんもすごいお名前だと思いますけど」
「そうですか?ところで、あなたは何故あのような場所に?いったいどこから?」
「あの、そんなことよりまず」
「はい?」
「食べ物と、水をください……」
ヒメはもう口はかさかさ、おなかはぐーぐーだった。
「食べ物と、み、みず?みずですか?」
「とにかく、なんでもいいから食べ物と!飲み物を!ください!」
「わ、わかりました!!」
とにかく必死だった。
そして。
「たっぷり補給してください」ユーネパパとユーネママが笑った。
「これは……なんの冗談ですか?」
絶句するヒメ。
仮称ユーネ家の食卓についたヒメの前に並べられたのは。
皿の上に山のように積まれたサルミアッキ。
そしてコップになみなみと注がれた苦丁茶。
以上。
ヒメは青い顔で言った。
「あの、これは……?」
「食べ物と飲み物ですが?」ユーネパパが怪訝そうな表情で答える。
「罰ゲームですか?」
「え?」
「サルミアッキと苦丁茶ですよね。これ」
「さるみ?」
「いや、確かに食べ物と飲み物ですけど」
「はい。食べ物と飲み物です」
「あの、こういうのじゃなくて、普通のがいいんですが?」
「普通の?」
「ごはんとか、パンとか、うどんとか……」
「???」ユーネパパとユーネママは困ったように目を合わせた。
「あの、なんでもいいので他の食べ物はないんですか?」
「他の……食べ物?」
「じゃあ、水は?」
「み、ず?」
ま、まさか。
ヒメは胸の内の違和感が、最悪の疑念に変わるのを感じた。
扉を開けて外に飛び出した。
外には一見のどかな農村の風景が広がっている。
「あ、ヒメ!」
ユーネが追ってくる。
ヒメは左右を見渡し、目当てのものを見つけた。
井戸だ。
走り寄って、つるべを吊り上げた。
おけの中に入っていたのは……
「苦丁茶……そんな…」
ヒメのSAN値はすでにゴリゴリに削れていた。
ヒメは再び走った。
「ヒメ!どこにいくの!?」
ユーネが走ってついてくる。
ヒメが目指したのは畑だった。
緑あざやかな畑。
見慣れない背の低い植物には、どれもこれもサルミアッキがくっついていた。
「サルミアッキ…まさか……」
いや、認めよう。
畑ではサルミアッキが栽培されていた。
「ユーネ。この近くに川か泉はある?」
「うん。あっちに」
ヒメは最後の望みを賭けて、ユーネの手を掴んで走った。
村はずれにある小川にたどりついた。
苦丁茶が流れていた。
水はどこにもなかった。
ヒメは河原に這いつくばった。
「ユーネ。あの畑の黒い物以外の食べ物を食べたことはある?」
「え?食べ物以外の食べ物……?」
「あの飲み物以外の飲み物は?」
「飲み物以外の飲み物……?」
事態ははっきりした。
この世界には、サルミアッキ以外の食べ物、苦丁茶以外の飲み物が設定されていない。
神による最悪の手抜き工事。
究極のメシマズ世界。それがクロレ・キッシー。
「ダメダ・メェェェェエエエー!!!!!」
ヒメは天に向かって、胸よ裂けろとばかりに叫んだ。
知らない天井。慣れないベッドの感触。ここはどこ?
乙姫つづりは身を起こした。
そこは典型的な『中世ファンタジー風世界の木造家屋の中』だった。
そうだ。ヒメ、異世界に来たんだった。
ここはクロレ・キッシーの世界。自分は砂漠で眠りについて。そして……。
部屋の扉が開いて、赤いエプロンをした15歳ほどの少女が入ってきた。
そしてこちらを見て言った。
「パパ!パパ!知らない子が目を覚ましたよ!」
「私はユーネパパ。この子はユーネ。砂漠で倒れていたあなたを、ここまでお連れしました」
少女の父親という、温厚そうな中年男性が挨拶した。
ユーネは父の後ろに隠れて、目を輝かせている。
「あ、乙姫つづりと申します」
「つづりさん?変わったお名前ですね」
「ユーネパパさんもすごいお名前だと思いますけど」
「そうですか?ところで、あなたは何故あのような場所に?いったいどこから?」
「あの、そんなことよりまず」
「はい?」
「食べ物と、水をください……」
ヒメはもう口はかさかさ、おなかはぐーぐーだった。
「食べ物と、み、みず?みずですか?」
「とにかく、なんでもいいから食べ物と!飲み物を!ください!」
「わ、わかりました!!」
とにかく必死だった。
そして。
「たっぷり補給してください」ユーネパパとユーネママが笑った。
「これは……なんの冗談ですか?」
絶句するヒメ。
仮称ユーネ家の食卓についたヒメの前に並べられたのは。
皿の上に山のように積まれたサルミアッキ。
そしてコップになみなみと注がれた苦丁茶。
以上。
ヒメは青い顔で言った。
「あの、これは……?」
「食べ物と飲み物ですが?」ユーネパパが怪訝そうな表情で答える。
「罰ゲームですか?」
「え?」
「サルミアッキと苦丁茶ですよね。これ」
「さるみ?」
「いや、確かに食べ物と飲み物ですけど」
「はい。食べ物と飲み物です」
「あの、こういうのじゃなくて、普通のがいいんですが?」
「普通の?」
「ごはんとか、パンとか、うどんとか……」
「???」ユーネパパとユーネママは困ったように目を合わせた。
「あの、なんでもいいので他の食べ物はないんですか?」
「他の……食べ物?」
「じゃあ、水は?」
「み、ず?」
ま、まさか。
ヒメは胸の内の違和感が、最悪の疑念に変わるのを感じた。
扉を開けて外に飛び出した。
外には一見のどかな農村の風景が広がっている。
「あ、ヒメ!」
ユーネが追ってくる。
ヒメは左右を見渡し、目当てのものを見つけた。
井戸だ。
走り寄って、つるべを吊り上げた。
おけの中に入っていたのは……
「苦丁茶……そんな…」
ヒメのSAN値はすでにゴリゴリに削れていた。
ヒメは再び走った。
「ヒメ!どこにいくの!?」
ユーネが走ってついてくる。
ヒメが目指したのは畑だった。
緑あざやかな畑。
見慣れない背の低い植物には、どれもこれもサルミアッキがくっついていた。
「サルミアッキ…まさか……」
いや、認めよう。
畑ではサルミアッキが栽培されていた。
「ユーネ。この近くに川か泉はある?」
「うん。あっちに」
ヒメは最後の望みを賭けて、ユーネの手を掴んで走った。
村はずれにある小川にたどりついた。
苦丁茶が流れていた。
水はどこにもなかった。
ヒメは河原に這いつくばった。
「ユーネ。あの畑の黒い物以外の食べ物を食べたことはある?」
「え?食べ物以外の食べ物……?」
「あの飲み物以外の飲み物は?」
「飲み物以外の飲み物……?」
事態ははっきりした。
この世界には、サルミアッキ以外の食べ物、苦丁茶以外の飲み物が設定されていない。
神による最悪の手抜き工事。
究極のメシマズ世界。それがクロレ・キッシー。
「ダメダ・メェェェェエエエー!!!!!」
ヒメは天に向かって、胸よ裂けろとばかりに叫んだ。