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おとひめつづりのだいぼうけん

女神ダメダ・メー様は言われました。
乙姫つづり。あなたは個人用防音室の爆発事故により次元のはざまに飛ばされました。
しかしあなたの地球でのおこないにより、異世界で生きること認めます。
さあ、目覚めなさい。

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乙姫つづりが目覚めると、そこは白くてふわふわな空間だった。
真っ青な空に、真っ白い雲みたいな綿毛のようなものが漂う地面が、どこまでも広がっている。
どこまでもずっと。地平線、と言ってよいのか、とにかく地平線が見えるまで。
ヒメは個人用防音室で配信を終えて、そのまま爆睡していたはずなのだが。

「乙姫つづり」
背後から声をかけられた。
ヒメが振り向くと、白い羽を生やした金髪のねーちゃんが浮かんでいた。
やわらかな後光がさしている。
天使?神?
「あなたは乙姫つづりさんですよね?
 黒髪ツーサイドアップ。ブルーのおめめ。ブルーのティアラ。身長150cm。童顔巨乳。ややおつむゆるそう。うん。間違いなし」
「えーと、あなたは」
「私は女神ダメダ・メー。
 乙姫つづり。あなたはだんぼっ……個人用防音室の爆発事故により、次元のはざまに飛ばされました。
 しかしあなたの地球でのおこないにより、異世界で生きること認めます」
「地球に帰してください」
「地球は私の担当じゃないんで無理ですね」
女神は即答した。ヒメはげんなり。

「えっと、それでヒメはどんな世界に転移するんですか?」
「理解が早いですね。私が創った世界、クロレ・キッシーです」
「では女神さま。あなたの世界の特色とアピールポイントをお聞かせください」
「なんで面接が始まるんですか!?」
女神は頭を抱えた。
「……クロレ・キッシーはいわゆる典型的な中世ファンタジー風世界です。
 風光明媚かつダイナミックな自然環境に富みますが、温暖で住みやすいエリアも用意されております。
 また魔法システムも完備。魔術・神聖・精霊の3系統からなる魔法が、あなたをサポートいたします。
 特殊な性癖の方のために、一部地域にはオークやスライムも集中的に配備されております」
「今後のご活躍をお祈りいたします。本日はありがとうございました」
「なんでですか!!?ちょっと待って!!?乙姫つづりさん、どこに行くんです!!?」
「あまりにも無個性といいますか、この異世界乱立の時代においてそれじゃ厳しいと思いますよ」
「あなたに選択の余地はないんですよ、乙姫つづりさん!
この世界に転移するか、次元のはざまで孤独に余生を送るかなのです!」
やれやれ。完璧な異世界などといったものは存在しない。完璧な個人用防音室が存在しないようにね。

「ところで、ヒメの地球でのおこないってなんですか?」
「乙姫つづりさん。あなたは知らない人をぶっ〇したことがありますか?」
「ありません」
「OKです」
ずいぶんゆるいな、転移の基準。ヒメはあきれた。

「じゃあ、チート能力ください」ヒメは右手を差し出して言った。
「え?」
「異世界転移ですよね?チート能力ください」
「いえ。今回のあなたの事故は、べつにこちらの不手際でもなんでもないので、チート能力は……」
「ファンタジー世界ですよね」
「はい」
「モンスターとかいるんですよね」
「はい」
「ヒメは20歳の女の子なんで、放り出されたらすぐに死んじゃうかなーって感じなんですけど」
「おかしいですね? こちらのファイルでは、あなたは2X歳ということになっていますが」
「『女は首を絞めながらヤるのがちょうどいい』って、ごちそうくんが言ってましたよ?」
「ぐぐぐぐぐるぢい、は、は、放して、放して……!」
「じゃあチートは無理でも、生きていくための最低限の能力をくれませんかーなんて」
「それくらいならまぁ」
「じゃあ職業は勇者で」
「え?」
「タンク的な職業もいいかなって思ったんですけど、一人で生き抜くなら勇者が最低限かなって感じですね」
「はぁ」
「レベルはカンストで」
「え?」
「やっぱり女の子の一人旅って危ないし、アイドル的にあーる18展開ってまずいんで」
「はぁ」
「魔法も全部使用可能にしてください」
「え?」
「やっぱりせっかくあるなら魔法は全部つかいたいじゃないですか」
「はぁ」
「あと異次元アイテム収納ボックス」
「え?」
「ほら、やっぱり女の子なんで。重たい荷物とか運ぶの苦手なんで」
「はぁ」
「えっと、この中にこれはやっぱダメだな~無理だな~っての何かありますか?」
「そう……ですねぇ」
「……」
「ないですかね……」
ないんかい。

かくして勇者乙姫つづりはクロレ・キッシーの世界に降り立つのだった。
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