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9th Oct 2012 from Twitlonger

《閃光》





その人は、夜明け色の髪をしていた。


きらきらと闇の雫を受け、輪郭を顕した明るいオレンジの髪は、愉快にさらりと横に揺れた。
弧を描くアルカイックな口元。からかいを含ませた深みを覗かせる瞳は、ぱちりと見開かれ動じない。
細い肩。細い腰。細い指。薄い体温。
どれほどの光を飲み込んで夜の中に仄暗く浮かぶのか、その姿は一切を纏いはためかせて美しい。
「すみません、大丈夫ですか?」
可愛らしい声がこの耳を伺って、ぼんやりと世界を染め上げる。
答えることもできず見下ろした容顔に、添えられた影がこちらへ非礼を詫びてくる。僅かに返した生返事で、戸惑いを漂わせながら一対の明暗が歩を道に戻す。
その並び揃えられた誂えに、意味もわからず息を停める。
その人は、夜明け色の髪をしていた。
明るく昇る朝陽と、全てを覆う漆黒を映して、そのもとに人を抱いていた。
ただ行き違うだけの肩を触れ合わせ躓いただけの存在は、街の片隅でそれを見送りながら、初めて鼓動を知った。
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