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2nd Jun 2012 from Twitlonger

「君が願うほど、僕は素敵な存在じゃない」
僕に瓜二つのその人は、いつもと変わらないほんのりとした笑みを見せながらそう告げた。
「例えば君が、いなければ」
ぼくはいらない。
彼の手が僕の胸を撫でる。
近頃また、めっきりとあばらが目立つようになってしまった貧相な胸を、彼の白くて小さな手が這う。
「例えば僕が、いなくても」
きみはしなない。
彼の声に鼓膜が唸った。うわあ、ああ。痛い。煩い。聞きたく、ない。
胸を撫でる短い爪は優しく屹立した乳首を避けて進む。彼の爪は僕に似て丸い。
「君が閉ざせば僕が」
彼の指先は冷たい。おぞけ立ちながら火照り出す背筋は、矛盾の可笑しさにぷるりと笑う。
滑稽なほど小さな手のひらは華奢すぎて、女の子のようだと、思う。僕に酷似した彼の手。
「僕を消しても君は」
そろりと這わされた右手。僕にそっくりな右手。ああ、タコがある。ぼやけた視界。外されたアイデンティティー。散らばる髪の毛が、汗ばむ皮膚に張り付いて気持ち悪い。
歪んだ細い眉。こんなに近付いては、唯一の違いの髪の色さえわからない。
ああそうだ。動かし通しの手首が、前腕が。時に痛むのを、君も紙とペンで誤魔化すのだろうか。それなら、僕とどこまでもお揃いだ。
「うつつでも、うつろでも」
お揃いだ。
彼の唇が、僕の唇にとける。
同じ形の薄い唇は、どこか上手く合わさらず、そのまま歪つに同化する。
「僕は」
きみだ。
彼の吐息が、僕の吸気となる。
僕は、息を失ってぬめる右手をシーツになすりつけた。
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