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ハート


テトラはスカラの足をぐいぐいと引きずりながら台所まで運んでいた。掴み上げられ浮いた下半身とは逆に、力無く床を這う上半身が、いつもとは違うスカラの様子を良く示す。
赤いペンキで塗り潰したような長い髪が、廊下の上にまるで筆の代わりをするように赤い跡を残していく。
甘く、ぬるい、鉄のにおい。
「ケヒ、」
テトラがぼたぼたと涎を垂らしながら、笑い声を上げた。
美味しいスカラ。甘い甘いスカラ。
テトラはスカラが大好きだった。
美味しいご飯が、大好きだった。
「……腹減ったし」
ご飯。
スカラ。
ご飯。
「けひゃひゃひゃひゃ!」
今日のご馳走は、





「(もー信じらんない何で寝てる僕をかじるかな!!)」
トントントントン、と怒りをぶつけるようににんにくを刻みながら、スカラはぶつぶつと声の無い愚痴を唱えていた。
「(作り置きしてたシチューも食べちゃってるしっ。引きずられたせいで髪の毛ぐちゃぐちゃだしっ)」
「早く、ご飯、腹減ったー」
「(テトラのバカっ!!)」
スカラはキッとテトラを一睨みして、オリーブオイルをひいたフライパンににんにくを入れた。鷹の爪はほんの少し。鉄のフライパンの中身を焦げ付かないよう炒めながら、隣の寸胴にスパゲッティを差し入れる。塩はきつめが、テトラの好みだ。
「(……1キロで足りるかな?)」
騒ぐテトラを無視しつつ、スカラはフライパンにトマトや茄子、セロリをどさりと放り込み、強火で優しく掻き混ぜる。味付けはシンプルに岩塩を。そうこうしていると、スパゲッティが茹で上がる。
ざっと笊にあけてから湯切りして、鍋に戻したらオリーブオイルを掛け混ぜる。こうしておけば冷めてもだまになりにくいと、今日新しく買ったレシピ本に書いてあった。
「(まぁ、冷める前に食べられちゃう気もするけど)」
火を止めてあったソースに、固めに茹でたスパゲッティを入れる。もう一度温めながらさっと絡めて。
「(できましたー)」
「うは、うまそう」
大皿にこんもりと盛られたパスタに、フォークは一本。隣には粉チーズが置かれて、テトラの夕飯の出来上がり。
いただきますの挨拶は、もちろん省略される。
「うっまマジうまいさすがスカラー」
「(さて、お代わり用のソースも作んなきゃ)」
適当な感想を聞くのもそこそこに、立ち上がったスカラの後ろで、早くもお代わりはー?という声がした。


write2011/6/7
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