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刀/メンヘラ本丸

手のひらをなぞる指のはらはやわい。

「意思」が反映されているのだろう。この本丸において、大凡の刀の手のひらには胼胝の一つもなく、みな綺麗に丸い爪をしている。一部の例外といえば、体格からして「ヒトであれば」そうでなければおかしい程に体格が良かったり、性格が傾いていたりするもの達だ。
事前に詰め込まれた知識で男士の心身に顕現した審神者による影響が出ることは珍しくないと知っていたものの、実際目の当たりにすると中々偏執を感じるものだとため息が出た。
憂う頭から首肩を沿うて繋がる腕の先。肉はあつめに、色味は薄く。荒れてはいないが潤いが足りないようにも思える、やや枯れた肌。骨は目立たないが筋張って、体躯に対し少し大きい、カドのある手のひら、を、別刃の赤い爪先がなぞる。
なめらかに紅が塗り込まれてはいるが、爪は深めに切りそろえられている。楕円というには少し長さの足りない形だ。皺の少ない、すらりとしつつも関節の太さを感じる指。きめ細かく張りのある皮膚は、陽に焼けていなくとも己より地色に黄味が強い。意図的なしなりを持って手のひらを弄くる仕種。
なによりも強く、なによりも鋭い指のはらは、やわい。
「 」
ひそりと囁かれる言葉に目をやる。
緊張に冷える、四角く厚く平べったい我が爪をつまみとる滑らかな指先はぬるい。そのまま軽々と引き剥がして捨てることも出来るだろうに、かさつき伸びた白い余りが見えるだけの、面白味のない末端を彼はゆるゆるとただ擽る。
ぎゅうと、汗の気配がしないぬるい手に握りこまれ、感覚の鈍くなった指先は視界からも消えた。
奪われていると思う。かなわないとおもう。
「 、   」
やわらかく、うつくしい手が、今日も僕を斬り崩す。
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