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御花本丸

うちの本丸では、お昼ご飯は食べたければ各自で用意することになっている。
ボク達は兄弟で作り合ったり、みんなで万屋街へ食べに行ったりすることが多いけれど、たまに誰かの自炊のご相伴に与ることもあった。
中でも機会の多いのは、加州さんだ。
加州さんは主様と近侍の刀の分を毎日作ってくれていたから、他の気まぐれしぇふな仲間と違ってねだりやすかったし、忙しい主様に気後れするボク達を、一緒に食べてくればとわざと誘ってくれたりもした。
加州さんのご飯は、昼用でご自由にと用意されているおこめとお漬け物に、そのとき手作りの一汁一菜が加えられた形が基本で、本人は「簡単なもの」だってケンソンしちゃうけど、ボク達はいつだって今日は「らっきー」だね、って言い合うくらいおいしかった。
ボクが好きなのは生姜焼き!加州さんの生姜焼きはすりおろした玉ねぎがたれに入っていて、薄切りで大判のやわらかいお肉を使っている。
薬研は長芋のお味噌汁、五虎退はあすぱらととまとと鶏肉の炒めたのが好きだって。五虎退のは、ボクは食べたことがないからいつか食べてみたい。
でも最近、この本丸では少し変わったことがあって、そのいつか、がいつになるのかが今までよりも分からなくなってきた。

「なあ清光、これはこのくらいでいいのか?」
「んー、もうちょっと薄く切れる?その方が口当たりがいいんだよね」
昼前に厨を覗けば、加州さんが料理をしているのは変わらない。けどちかごろは、その隣にもう一振り立ち並んだ背中がある。
「かーしゅう、さん!」
包丁を置いたたいみんぐを見計らって抱きつくと、お昼?と穏やかな声が降りてくる。
「一緒に食べる?」
「いいの?」
「大丈夫、こっちの分減らすから」
こっち、と顎で指された則宗さんが、清光と不満げに加州さんをたしなめて、加州さんが茶目っ気を柔らかくふやかした顔で笑った。
仲良しだなあ、と思いながら腰に回していた手を離す。そんなにちらちら見なくったって、ボクに割り込む気なんかないよ?
「ね、今日のおかずは?」
「大根とえのきの味噌汁と、乱が好きな生姜焼き」
「わあ!」
パラリとボクの周りに桜が散る。
そんなに?と苦笑する加州さんにエヘヘと笑って、お皿出しとくね、と手伝いに回った。
また、何か訊いたり答えたり、二振りがぽつぽつ話しながら作業するのに耳を傾けながら、ボクは口元をもう一度弛ませる。
加州さん、ボクが生姜焼き好きだって覚えててくれたんだ。それが嬉しかった。

最近、主様のお昼ご飯係は固定じゃなくなった。今まで通り加州さんが主軸ではあるけれど、他にも何人か立候補があって、別の刀が作っている日も多くなった。
時たま、万屋街で則宗さんと連れ立って歩く加州さんを見るのもそんな日だ。
だから、ボクには次にあすぱらととまとと鶏肉の炒めたのが食べられるのがいつなのか、もうさっぱり見当がつかない。
まあとりあえず今日は、大好きなおかずが食べられるんだし、加州さんもカワイく笑っていることだし!とってもらっきーだから、そんなのいつでも構わないけど。


write2021/6/19
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