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鬼罌粟本丸


「ねえ則宗、やっぱり少しくらい種付けとこっか」
並んで寝転んだ布団の中、仰向けで夢に入り始めていた則宗は一気に意識を鮮明にした。
問答以降、京の暗がりを駆け以前より力を増した清光の腕が、温かな布の合間を這い寄って則宗の腕を掴む。今日はやけに側に寄って寝ていると思えば、始めからそういう算段だったらしい。
二人の横たわった布団は、則宗が部屋を越した際とくべつに与えられた大判のものだ。大太刀二振りでも余裕のありそうなそれへ、普段であれば直に熱の伝わらぬ程度に身を離した距離を保ち就寝する。だが、いま清光の顔は則宗の耳に吐息を吹きかけながら、二色の髪が交わって散るほどごく近くにある。
遠慮のない手が脇腹の辺りをまさぐりながら下がり、寝間着の裾を手繰って腰元へ滑り込む。シュルシュルと敷布の擦れるおとが、段々熱の篭もる呼吸音に混ざった。
伸ばされた彼のてのひらは存外冷たく、則宗の背にぞくりと震えが伝う。
幸せな茶番劇を始めてから、既にしばらくが経つ。「妻」の役を勤めつつ、「夫」の目が届かないうちに演練や簡易な出陣遠征に出してもらってはいるが、もう互いの練度には二十以上の差がついている。ここで抵抗をしても、夜戦補正もある。弱い太刀では到底敵わないとどちらも察している。
京都の闇路とて最近では市中を抜けたらしい。毎日睦まじく、本当の夫婦のように暮らしてはいるが、それでも当然、空っぽの腹は膨らむ筈がない。過日ひとりであれだけ思い込めたものが、多くの目を得ては己を誤魔化し騙すにも難しく、容易に焦れたと推察できた。審神者にも滔々明かしてしまった後なのだから、仕方がないことかもしれない。
帯が解かれ、合わせが肌蹴た。細作りの手指が男の固い腿を撫でる。風呂を出た後だ、下帯は付けていない。則宗は清光の狙いが鼠径部へ向かう気配を感じながら、天井裏から見ているであろう短刀か脇差へ手出し無用、と唇だけで合図する。少しの間が空き、カタリと、起きるはずもない小さな家鳴りがした。

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