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碁盤の目を。

一マス進んだ。門に並ぶ街灯はスポットライトとして柱状に道を照らし、合間合間を渡るには何の役にも立っていない。
どこか一行二行はなれたか、三列四列はなれたかしたところから、虫のはばたくに似た喧騒が聞こえるようだが、それは脳の中になっているだけかもしれなかった。
猫がにゃあんと鳴いている。ばちりばちりと街灯にぶつかる虫の自殺音が激しく、美しく輝くものに焦がれてふらり道を踏み外すのは全ての生命にとっての幸福でありましょうやと、虫の気持ちによく共感できた。
「■■■」
迎えが来た。
スポットライトの真下にはのったりと長い影が立っていた。
煌びやかな器だ。良く見知った姿だ。
「■■■、■■■■■■」
一マス進む。スポットライトがふつと消え、また点いた。
「■■■、■■■■■」
どうにも縮まらない。一マス進む。スポットライトの真下には丸く切り取られた光が影の形に欠けている。
「■■■、■■■■■」
一マス進む。ヂイヂイと五月蝿く燃えた蛾が花弁のように焼け落ちていくのを目で追う。翅のもえかすはちり、重たい胴体だけが脚をちらばせながら地面に落ちた。
影が遠い。
「■■■、■■■」
一マス進んだ。一マス進む。一マス。一マス進み。ひとつ。一マス。一マス進む。一マス進めば。一マス。一マス進む。一マス進む。一マス一マス一マス一マスひとひとひとひと。
ずらりとスポットライトが並ぶ。光の円柱が碁盤の目に沿い並ぶ。門の全てに並ぶ。丸い白にカシラの見えない影が並ぶ。沢山のお迎え。沢山のお迎え。ひとますすべてにおむかえ。「■■■」よびごえ。「■■■」なきごえ。「■■■」こえ。「■■■」こえる。「■■■」ひとすすみして「おかえり」こえる。
「よくきたねえ、あるじ」
宴の匂いがした。


《ひとかえる》
write2019/12/11
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