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思ったよりも軽い音がした。
どこかで聞いたような音。あっ、と自分の手の先を見てみると、それはもう見事なほどにどうにもならない状態で、思わず笑ってしまった。
笑った口の端が、ぴりと切れる感じがした。
去年の冬に、同じ理由で手入れを頼んだ主からリップクリームをもらったな。使い終わった容器が、いまでも捨てられなくて部屋に隠してある。
息を吸おうとして、肺がうまく膨らまないのに気付く。
風邪をひいた主の苦しそうな咳が思い出された。人というのはどうしてあんなに脆いんだろう。救急箱に、冷却シートを常備するようになった。
部隊の仲間がこちらを見ている。
顕現したあの日、広間で挨拶をした時と同じように。みんないいやつで、すぐに今の住処が好きになった。
叫んだだろう声が聞こえない。
屋根の上でいたずら刀と一緒に帰城を待ってくれていた主を叱ったな。あの時の自分も、あんなに切羽詰まった顔をしていたんだろうか。この形になって一番に世界を感じた足の先が、世界から切り離されて瓦解する。
何度も降り注がれた誉桜のように、自分の身体がばらばらと散っていく。
見得のように、なんだかとぎれとぎれに、じぶんのそんざいが、ほどけていくのを、りかいする。
「―――         」
最期に思い出す。
ああ、あのキンと澄んだはのおれるおと。
あれは、打ち上がりのひとつちににていた。


≪やいばうつおと≫
write2020/3/28
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