らくがき
作品一覧
「もう、エルったら」
視線の先で、エルが楽しいことをしている。その姿に思わず笑みがこぼれてしまった。 私が元気がないと感じたらしいエルは、色々な場所に連れて行ってくれた。 「アレすごく楽しそうデース!!」 「あっ! グラスの好きな抹茶のアイスのお店!!」 ころころ変わるエルの表情を見ていたら、それが可愛くておかしくて。 まんまとエンターティナーに笑わされてしまった。
「かわいい」
つん、と指でつついて頬が緩む。 ぱかプチと呼ばれるアタシたちのぬいぐるみの他にも出た、まるっとマスコットという名前のもちもちしたぬいぐるみ。 遠征先のこの場所にグラスのそれをアタシは持ってきた。ぱかプチは枕元にあって、これは持ち歩き用だ。 勉強に疲れてこのもちもちとしたマスコットに癒やしを求めた。 「グラスのほっぺたはふにふにでしたねぇ」 ふと思い出すのは何となく触ったときの感触。すべすべのお肌にふにふにとやわらかい、グラスのほっぺた。 「……会いたいなぁ」 頬杖を付いて、むにむにもちもちとマスコットを握るのだった。
「自分が、情けないです」
風邪を引いて具合悪い、ちょっと弱気になってるグラスはそう言った。耳をぺたんと伏せて、熱に浮かされて頬が赤く染まっている。息だって苦しそうなのに、グラスの口から出てきた言葉は自責の念。ご飯を食べ終わって一段落というタイミング。 「グラスー。風邪は誰だって引いちゃいますよー?」 「エルは引かないじゃないですか」 「エルエルは風の子デスから。グラスはギリギリまで頑張り過ぎなんデスよー」 頭をよしよしと撫でてあげる。手は振り払わないくせに、むっと不満そうな顔。 「子供扱いしないでください」 「たまにはアタシにお姉ちゃん気分を味わわせてください」 起きていようとするグラスをベッドに寝かせて、おでこに冷却シートを貼ってあげる。 「ちゃんと寝たら明日にはきっと良くなります」 「……ほんと?」 「スィ!」 グラスが元気になるように、冷却シートの少し上にちゅっとおまじない。小さい頃にママがしてくれたやつ。 「子供扱い」 「ふふっ、エルエルのママのとびきりのやつデス」 「……ありがとう、エル」 グラスが頭まですっぽり布団を被ってしまったので、アタシは小さな土鍋を片付けに部屋をそっと後にした。