タイキ×ドーベル
まずはアップルフィリングを作る。
今日はタイキが出張先から帰ってくる日で「何が食べたい?」って聞いたら「ドーベルのアップルパイが食べたいデース」と、開口一番飛び出してきた。
初めて作ってあげたあの日から、何かあればタイキはアップルパイをリクエストしてくる。
(まさか本当に結婚できるだなんて)
今のアタシの左手の薬指には、キラリと光る銀色の指輪がある。トレセン学園の卒業式のあと、すぐにタイキがプレゼントしてくれたものだ。
初めてアップルパイを作ってあげたあの日にプロポーズされて、別れに発展するような喧嘩をすることもなくアタシたちは穏やかな日々を過ごして、今こうして大人になっても一緒に暮らしている。
「……美味しくなーれ、なんてね」
アタシなりにたっぷりの愛情を込めて、ことこととりんごを甘く甘く煮つめていく。少し甘めなのがタイキの好みだ。
アップルフィリングを作り終わり冷ましていると、家のチャイムが鳴る。ちょうどタイキが帰ると言っていた時間だ。
エプロンをしたまま玄関を開けに行く。タイキが家の鍵を持ってないわけではない。何でもお出迎えしてくれるアタシの姿が好きなんだとか。
玄関を開けると数日ぶりに見る愛しい人が、お土産を両手いっぱいに持って、顔には満面の笑みで立っていた。
「ただいまデース、ドーベル!」
「おかえりなさい、タイキ」
「ドーベル」
ん、と顔を差し出される。
何を要求されているのかは、わざわざ言われなくてもわかる。両手が塞がってるから、アタシからキスをしてほしいってことくらいは。
でも自分からキスをするのは、未だにほんの少しだけ恥ずかしさがある。
深呼吸を一回挟んでから、アタシはタイキの唇に自分のを重ねた。
一、二、三、四、五。これがアタシの限界。
「フフッ」
離れるとタイキが満足そうにして家の中に入っていった。
ドサドサとお土産をリビングのテーブルの上に置いて、タイキがソファにくたっと体を預ける。
「ドーベル、ドーベル」
ぽんぽんとすぐ横を叩いてアタシを呼ぶ。隣に座るとすぐにギュッと抱き寄せられた。
「ドーベル、三日も離れてワタシ、寂しかったデース」
ちゅっ、とリップ音を立てて両頬や額、首筋にキスをされる。タイキの愛情表現は激しいけれど、抵抗することなく受け入れられるようにはなった。ついでにアタシからも唇に一回だけキスをする。こうしないとタイキがあとで寂しがるから。
「スウィートな匂い……! アップルパイデスネ!」
「あとは焼くだけだから、食後に用意するね」
「楽しみデース」
「タイキ、疲れたでしょ? お風呂沸かしてあるから入ってきて」
「ドーベルも一緒デスヨネ?」
「アタシは晩御飯のあとに入りたいんだけど」
「ノー! それだったらディナーが先デース! ドーベルと一緒にお風呂入りたいデース!」
「わかったわかった。それじゃあ晩御飯用意するから、ゆっくりしてて」
「イエス!」
タイキは出張などに行くと離れていた分を取り戻すようにアタシにひっつき虫になる。せっかくすぐに入れるようにしておいたお風呂だけれど、追い焚きで温め直すことにしよう。
シチューは作ってあるので、あとはサラダとポークソテーを作ればいいかな。
お腹を空かせているだろうタイキに手早く晩御飯を用意する。
「イタダキマース!」
「いただきます」
パンッと手を合わせると、アタシから見たら急ぎ過ぎなくらいのペースで用意したものを平らげていく。
「そんなにお腹空いてたの?」
「ぺこぺこデシタ! ンー! Yummy!!」
「慌てて食べなくてもおかわりたくさんあるから。ほらもう、ソース付いてる」
「センキュー」
ほっぺたにソースをつけてご飯を食べる姿は、小さな子どものよう。トレセン学園にいた頃から変わらない無邪気さに、ふっと頬が緩んでしまう。
(このままだとすぐに食べ終わっちゃうかな)
おかわりを作って出してあげながら、アップルパイを仕込んでオーブンに入れる。
パイが焼き上がった頃、タイキはすっかりおかずもパンも食べ終わっていて、焼きたてのパイを出してあげると瞳の輝きが一等増した。
「今日のアップルパイも美味しそうデース!」
「焼き立てだから熱いよ。気をつけてね」
「アウチ!」
「……遅かったか」
ハフハフとタイキは口の中でアップルパイを踊らせている。でもすぐに二口目を含んでは、にこにこと満面の笑みでパイを食べてくれていた。
「「ごちそうさまでした」」
同じくらいのタイミングで食べ終わって、アタシが食器を片付けようとするとタイキは率先して手伝ってくれた。
「疲れてるでしょ? アタシがやるからいいよ」
「ノープロブレム! なるべくドーベルの側にいたいデスカラ!」
「もー、仕方ないなぁ。ありがとね」
アタシが洗って、タイキが食器についた水気を拭き取る。隣でタイキが鼻歌を歌っていて、昨日まではなかったその音色が心地良い。
二人でやれば早いもので、アタシはエプロンを脱いで給湯器の追い焚きのスイッチを押した。
「ドーベル」
「ひゃっ、タイキ?」
いつの間にか後ろにいたタイキがぎゅっと抱きついてくる。
「お風呂でもいっーぱいラブしましょうね?」
「今だってくっついてるのに、もっと?」
「イエース! いっぱいいーっぱいデース。離れてた分、たくさんドーベルを補給させてください」
「……アタシも、タイキいなくて寂しかったよ」
「ドーベル!!」
「ちょっと、苦しいから!」
なんてじゃれ合いながら、アタシとタイキはお風呂に向かうのだった。
今日はタイキが出張先から帰ってくる日で「何が食べたい?」って聞いたら「ドーベルのアップルパイが食べたいデース」と、開口一番飛び出してきた。
初めて作ってあげたあの日から、何かあればタイキはアップルパイをリクエストしてくる。
(まさか本当に結婚できるだなんて)
今のアタシの左手の薬指には、キラリと光る銀色の指輪がある。トレセン学園の卒業式のあと、すぐにタイキがプレゼントしてくれたものだ。
初めてアップルパイを作ってあげたあの日にプロポーズされて、別れに発展するような喧嘩をすることもなくアタシたちは穏やかな日々を過ごして、今こうして大人になっても一緒に暮らしている。
「……美味しくなーれ、なんてね」
アタシなりにたっぷりの愛情を込めて、ことこととりんごを甘く甘く煮つめていく。少し甘めなのがタイキの好みだ。
アップルフィリングを作り終わり冷ましていると、家のチャイムが鳴る。ちょうどタイキが帰ると言っていた時間だ。
エプロンをしたまま玄関を開けに行く。タイキが家の鍵を持ってないわけではない。何でもお出迎えしてくれるアタシの姿が好きなんだとか。
玄関を開けると数日ぶりに見る愛しい人が、お土産を両手いっぱいに持って、顔には満面の笑みで立っていた。
「ただいまデース、ドーベル!」
「おかえりなさい、タイキ」
「ドーベル」
ん、と顔を差し出される。
何を要求されているのかは、わざわざ言われなくてもわかる。両手が塞がってるから、アタシからキスをしてほしいってことくらいは。
でも自分からキスをするのは、未だにほんの少しだけ恥ずかしさがある。
深呼吸を一回挟んでから、アタシはタイキの唇に自分のを重ねた。
一、二、三、四、五。これがアタシの限界。
「フフッ」
離れるとタイキが満足そうにして家の中に入っていった。
ドサドサとお土産をリビングのテーブルの上に置いて、タイキがソファにくたっと体を預ける。
「ドーベル、ドーベル」
ぽんぽんとすぐ横を叩いてアタシを呼ぶ。隣に座るとすぐにギュッと抱き寄せられた。
「ドーベル、三日も離れてワタシ、寂しかったデース」
ちゅっ、とリップ音を立てて両頬や額、首筋にキスをされる。タイキの愛情表現は激しいけれど、抵抗することなく受け入れられるようにはなった。ついでにアタシからも唇に一回だけキスをする。こうしないとタイキがあとで寂しがるから。
「スウィートな匂い……! アップルパイデスネ!」
「あとは焼くだけだから、食後に用意するね」
「楽しみデース」
「タイキ、疲れたでしょ? お風呂沸かしてあるから入ってきて」
「ドーベルも一緒デスヨネ?」
「アタシは晩御飯のあとに入りたいんだけど」
「ノー! それだったらディナーが先デース! ドーベルと一緒にお風呂入りたいデース!」
「わかったわかった。それじゃあ晩御飯用意するから、ゆっくりしてて」
「イエス!」
タイキは出張などに行くと離れていた分を取り戻すようにアタシにひっつき虫になる。せっかくすぐに入れるようにしておいたお風呂だけれど、追い焚きで温め直すことにしよう。
シチューは作ってあるので、あとはサラダとポークソテーを作ればいいかな。
お腹を空かせているだろうタイキに手早く晩御飯を用意する。
「イタダキマース!」
「いただきます」
パンッと手を合わせると、アタシから見たら急ぎ過ぎなくらいのペースで用意したものを平らげていく。
「そんなにお腹空いてたの?」
「ぺこぺこデシタ! ンー! Yummy!!」
「慌てて食べなくてもおかわりたくさんあるから。ほらもう、ソース付いてる」
「センキュー」
ほっぺたにソースをつけてご飯を食べる姿は、小さな子どものよう。トレセン学園にいた頃から変わらない無邪気さに、ふっと頬が緩んでしまう。
(このままだとすぐに食べ終わっちゃうかな)
おかわりを作って出してあげながら、アップルパイを仕込んでオーブンに入れる。
パイが焼き上がった頃、タイキはすっかりおかずもパンも食べ終わっていて、焼きたてのパイを出してあげると瞳の輝きが一等増した。
「今日のアップルパイも美味しそうデース!」
「焼き立てだから熱いよ。気をつけてね」
「アウチ!」
「……遅かったか」
ハフハフとタイキは口の中でアップルパイを踊らせている。でもすぐに二口目を含んでは、にこにこと満面の笑みでパイを食べてくれていた。
「「ごちそうさまでした」」
同じくらいのタイミングで食べ終わって、アタシが食器を片付けようとするとタイキは率先して手伝ってくれた。
「疲れてるでしょ? アタシがやるからいいよ」
「ノープロブレム! なるべくドーベルの側にいたいデスカラ!」
「もー、仕方ないなぁ。ありがとね」
アタシが洗って、タイキが食器についた水気を拭き取る。隣でタイキが鼻歌を歌っていて、昨日まではなかったその音色が心地良い。
二人でやれば早いもので、アタシはエプロンを脱いで給湯器の追い焚きのスイッチを押した。
「ドーベル」
「ひゃっ、タイキ?」
いつの間にか後ろにいたタイキがぎゅっと抱きついてくる。
「お風呂でもいっーぱいラブしましょうね?」
「今だってくっついてるのに、もっと?」
「イエース! いっぱいいーっぱいデース。離れてた分、たくさんドーベルを補給させてください」
「……アタシも、タイキいなくて寂しかったよ」
「ドーベル!!」
「ちょっと、苦しいから!」
なんてじゃれ合いながら、アタシとタイキはお風呂に向かうのだった。