サマーウォークに行ってから、まだまだタイキとたくさんの思い出を作りたいと思った。同室だから普段から一緒にいる時間は多いのに、二人きりでどこかに出かけたい欲求が前より感じやすくなってしまったのは、どうしてだろう。
（とりあえず、サマーウォークの時は自分から誘えなかったからリベンジしたいんだよね）
　タイキは何をしても喜んでくれそうな感じはあるけれど、どうせならタイキの故郷では体験しないような、日本ならではのものをしたくてネットを漁った。
　それから事前にアタシのトレーナーに話をして、タイキのトレーナーにも相談して、あとはタイキ本人に話を切り出すばかり。
（大丈夫。今度は誘える）
　あの夏の思い出がアタシの背中を押してくれる。
　お風呂を終えて、タイキがアタシの髪を触ってるリラックスタイム。アタシとしては、タイキの手が気になって全然リラックスしてはいないのだけれど。
　別のことに気を取られてれば、さほど緊張せずに話せるんじゃないかという作戦だ。
「ねえ、タイキ」
「ん？　もう終わりデスカ？」
「いや、髪はまだ触ってていいよ。ちょっとね、タイキと遊びに行きたいなって思って」
「オゥ！　何デス！？」
　タイキの手が止まって、後ろからアタシの顔をのぞき込んでくる。ぱっちり目があって反射で少しだけ身が固くなるけど、このまま、動け、アタシの口。
「っ、タイキとね、一泊二日で旅行に行きたいなって」
「旅行、トリップ！？」
「と、トリップ？」
「トリップは短い旅行のことデース」
「なるほど」
　慣れない言葉が飛び出してきて混乱しかけたけど、タイキはすぐに解説を入れてくれて助かった。旅行と聞いてタイキは目をキラキラと輝かせてる。
　上々な反応に、言葉を続けるのにかかる変なプレッシャーが取り除かれてく。
「去年のサマーウォークがすごく楽しかったから、またタイキと出かけたいんだ」
「ドーベル……！」
「一緒に旅行、してくれる？」
「イエース！！　モチロンデェース！」
「わっ！　ちょっともう、いきなり抱きつかないで」
「ンフフ」
　ささやかに転がる鈴のような、タイキの笑い声が耳に心地よい。
　もしかしたら断られるかもと頭の片隅では考えてたけど、タイキの返事は一瞬の間もなく即答で、オマケに強烈なハグまでついてきた。
「今回はアタシたち、未成年だけの旅行だからタイキのご両親に許可貰ってね？」
「ハーイ、了解しました！」
　アタシもお父さんかお母さんに連絡しなくちゃ。
　その日はタイキと旅行のことで盛り上がって、いつもより夜ふかししてしまった。


　※　　　※　　　※


　次の日さっそく、タイキはアメリカのご両親にメールで必要書類を送った。記入した書類は国際郵便で送られてくるから、それに合わせて約一ヶ月後の予定で旅館の予約をトレーナーに取って貰う。
「トレーナー、ありがとう」
「どういたしまして。ドーベルからこう言ったワガママ言ってもらえるのは嬉しいから、どんどん甘えてもらえると助かるんだけどな」
「それは……まあ、必要なときにね」
　甘えるのは緊張するし、やり方があまりわからない。タイキはそこのところ上手そうだ。今度聞いてみよ。
「新幹線のチケットもこっちで用意するから、当日は見送らせてね？　もちろん帰ってきたら迎えにもいくから」
「別に送り迎えは大丈夫なんだけど」
「初めての子どもだけでの外泊だからね。ご両親から大切なお子さんを預かってる身としては、きちんとしておきたいのさ」
「わかった。そういうことならお願い」
「ん！」
　トレーナーのよくできましたと言わんばかりの笑顔。頼りになる大人が近くにいるのは、やっぱり安心する。
　この人がアタシのトレーナーでよかったと、改めて思うのだった。