毎年毎年プレゼントを渡していて、さて今年はどうしようとウインドウショッピングをしていた私の目に飛び込んできたのは、今CMでよく見かける尻尾ケア用のオイルだった。
　エルも一応年頃の女の子なので、自分でケアをしているのだけれど、どこか大雑把で手を抜いている印象が否めない。一緒に買い物をしているときも、特別こだわりがあるというよりは髪と尻尾兼用の【ボリュームのある貴方へ】と書いてあるものを、お財布事情を加味して購入しているに留まっている。決まったブランドを気に入って使っているといった様子ではないのだ。
　ケア用の櫛だってそう。お徳用のブラシを買っているだけ。前にちゃんとしたものを使うと違いますよと言ったこともあるのだけれど、エルはボリュームが多いからすぐにブラシが駄目になってしまいマースと渋った。
「しっかりとしたものを購入すれば、すぐに壊れるなんてことはないはずだけれど……」
　お店の中に入って、ブラシとオイルを物色する。しばらくするとウマ娘の店員さんがやってきて、色々と相談に乗ってくださった。
「お友だちへのプレゼント用を悩んでいらっしゃるんですね」
「ええ。その、あまり手の込んだ手入れが得意ではない子なので、少しでも楽に出来るものがあればと」
「それでしたら試供品のセットをご用意致しますので、その中からお友だちが気に入ったものを選んでいただいて、後日購入をされてはいかがでしょう？」
「ありがとうございます。あと、ケア用のブラシも探しておりまして〜」
「それでしたら──」
　あれよあれよとプレゼント選びは無事に終了した。自分の手でじっくりと選ぶ方が好きではあるけれど、プロの店員さんに相談して決められるのは大変にありがたい。
　私はブラシとたくさんの試供品、それとケーキ屋さんで小さなケーキを二つ携えて、寮へと戻った。
「グラスー！　おかえりなさいデェス！」
　エルは私の手にあるものを見るやいなや、瞳をキラキラと輝かせながら私を出迎えてくれた。
「グラスグラス、それ、エルへのプレゼントデスか！？　プレゼントデスよね！？」
「どうでしょう？　ケーキは確かに私とエルの分ですけれど」
「意地悪はノン！！デスよ！！」
「ふふっ」
　ぷんぷんとわざとらしく起こって見せてくるエルが可愛らしくて、笑みがこぼれてしまう。こんな風に接してきてくれるのは、時間が生み出した信頼関係の賜物ですね。
　あまり意地悪してしまうとエルが拗ねてしまうので、買ってきたプレゼントは早速エルへと渡してしまう。
「開けていいデスか？」
「どうぞ」
　ケーキを机の上に起き、お茶の用意をしに一度部屋を出る。
　お湯を持って部屋に戻ると、広げたプレゼントを見て頭上にいっぱいクエスチョンを浮かべているエルがいた。
「グラァス……試供品がいっぱいデェス……？　エルエルはどうすればいいデスカ……？」
「その試供品はプロの方に相談して、エルでも毎日丁寧にケアを出来そうなものを選んでもらいました。早速今夜から使っていきましょう」
「……グラスがしてくれないデスか？」
「色々と話は聞いてあげますから、頑張って自分でやってください」
「んー、グラスが少しでも手伝ってくれるなら、頑張りまぁす……」
　気乗りがしないといった空気は感じるけれど、これもエルのためだ。エルの尻尾のケアを手伝うのは好きな時間ではあるけれど、いつまでも私に甘えてばかりではエルのためにならない。今年も海外遠征が控えているのだから、私抜きでもちゃんとしたケアを行えるようになってもらわなくては困る。
　でも──。
「今日はエルの誕生日ですから、仕上げは私が丁寧にやらせていただきます」
「ブラーボ！　そういうことなら頑張りますデース！」
「全部使い終わったら、一番良かったものを改めてプレゼントさせてくださいね？」
「グラシアス！　グラス！」
　少しの甘やかしは、必要ですよね。
　今日の主役はエルだから。
　今夜がとても楽しみ。
　ブラシはまだ私の鞄の中に隠してあるから、それを見たエルはどんな顔をしてくれるだろう。
『貴方のために、心を込めて選ばせていただきました』
　そのセリフが言える時間が、今からとても楽しみ。
「エル、お誕生日おめでとうございます」
「スィ！」
　無邪気な笑顔が、私の心を心地よくくすぐるのだった。