うまく渡り歩いているようで、私にはどこか危うく見えるヴィルシーナさん。私と付き合うことになった今でも、他の娘に告白をされることがあるのを見かけたことがある。
　私とヴィルシーナさんの交際は公にはしていない。知っているのはヴィルシーナさんの妹さんたちと、タルマエさん、オルフェさん、バリアシオンさんくらいだったかしら。
　色々とあった末に交際という形にようやく落ち着いた私たちのことを思えば、ヴィルシーナさんが簡単に他の方になびく事は無いだろう。
「そう。ヴィルシーナさんが私の元から離れていくことはない。でも」
　ヴィルシーナさんという華に寄ってくる虫が、煩わしい。
　そう考えたとき、私はもう行動に出ていた。
「ヴィルシーナさん、今よろしいかしら？」
「ええ、構いませんけれど」
　寮でタルマエさんとゆったりと過ごしていたらしいヴィルシーナさんを捕まえて、ちょうどルームメイトが留守にしている私の部屋へと連れて行く。
「貴方にこれを」
「チョーカーに、指輪……？」
　ヴィルシーナさんはアクセサリーと私の顔を交互に見て、困惑、とまではいかないが、どう反応するべきかとこちらを伺っている。
「プレゼントです」
「そう、ですよね」
「つけて差し上げますわ」
「えっ」
　そこまでしてくれるのかといった反応をするヴィルシーナさんをよそに、私はヴィルシーナさんの手を取り、指輪を右手の薬指に嵌める。
「本当ならこちらの指に付けていただきたいところですが、外野が煩わしくなるのはお望みではないでしょう？」
「そうね。あまりに騒がしくなるのは、貴方も望まないでしょう？」
「よくわかっていらっしゃること」
　ヴィルシーナさんは私と交際していることを、まだ公にできる精神状態ではない。私からの気持ちを、自分の中の気持ちをようやく咀嚼を終えたばかりなのだ。
　私もうるさいのは好きではないので、今ぐらいの状態が心地よい。
　だからと言って、ヴィルシーナさんが言い寄られているのを見過ごせるわけでもないのだが。
　チョーカーを手を取りヴィルシーナさんの首につける。
「よくお似合いですわ」
　チョーカーは黒の紐部分と真ん中にルビーを模した赤のジルコニアのチャームがある。ヴィルシーナさんの蒼色と混ざると少しばかり浮いているようにも見える赤。しかしそれがいいのだ。
「……ありがとう。大切にします」
「ええ、是非そうしてくださる？　これは、貴方が私のものである証なのですから」
「……いい趣味してるじゃないですか」
　私の言葉にヴィルシーナさんの瞳に対抗心が浮かぶ。所有物のように扱われていると感じたのだろう。いい目。何を返してくれるのか楽しみね。
「私は貴方に支配されたいわけじゃないですけど、これが貴方の親愛の形だとわかってきましたから、受け取ります。でも──」
　ぐいっと距離を詰めてきて、頬にふわりと柔らかいものが当たってはすぐに離れた。
「貰ってばかりではいられないわ。私からもお返しはいずれさせていただきます」
「そうこなくては」
　挑戦的な視線の心地よさに、思わず口角が上がるのを感じる。
　私からの気持ちに積極的に応える段階に進めたと思える、そんな時間を過ごせることに胸が踊る。
「今度、それを着けてお出かけしてくださるかしら？」
「喜んで」
　きっとこれで羽虫は寄らなくなるでしょう。
　解消されるであろう煩いに、私は機嫌よくヴィルシーナさんを彼女の部屋に帰した。