明日はみんな大好きエイプリルフール！
　午前中はどんな嘘をついてもいいって、ワクワクする。
　ただ、普段からよくわかんないことを言ってるゴルシさんいわく、人を悲しませる嘘だけは駄目だということ。
　そしてエイプリルフールについた嘘は実現しないっていうことも教えてもらっちゃった。
「実現させたくない嘘かぁ……」
　それってなんだろう。
　お姉ちゃんなんて嫌い？
　実現はさせたくないけど、冗談だってわかっててもお姉ちゃん悲しませちゃうかも。それは駄目だ。
　恋人ができたとか？
　うーん、お姉ちゃんに片想いしてる身としては嘘でもそれはやだなって思っちゃう。
「……あ、そうだ！」
　一個ちょうどいいのを思いついちゃった。
　これならちょうどいい加減で嘘をつけるし、実現してほしくもないからちょうどいいかもしれない。
　楽しみに眠りについて、次の日の朝。
　いつもみたいに三姉妹でご飯を食べ始めて、お姉ちゃんがあーんってしてくれようとしたからそれをプイってした。
「ヴィブロス？　どうしたの？　ちゃんとサラダも食べなきゃ駄目よ？」
「私、ちっちゃい子じゃないから自分で食べられるよ！　今日からお姉ちゃんに甘えるの卒業する！」
「……え？」
　お姉ちゃんが時間が止まっちゃったみたいに、ぴしりと動きを止めた。
　ふっふーん。言っちゃった。嘘ついちゃった。
　私はお姉ちゃんに甘えるのをやめるつもりはないから、実現してほしくないこととしてちょうどいい嘘がこれだった。
　嘘じゃないよって示すために、お姉ちゃんが食べさせてくれようとしたサラダを頑張って自分で食べてみせる。
　お姉ちゃん、どう思ったかな。
　ちらりと視線を移すとお姉ちゃんはまだフォークを持って固まったままだった。
　あれ、なんか様子がおかしい。
「お姉ちゃん……？」
「ヴィブロス……大人になったのね……」
　すごく寂しそうな顔してる。
　なんか、泣いちゃいそうみたいな。
　え、そんな顔させたくなかった。
　シュヴァちに助けを求めようと視線を送ると「自分で何とかしなよ」って言われてる気がした。
「お姉ちゃん！　今日はアレだよ！　あの日だよ！！」
「あの日……？」
　そう伝えるとお姉ちゃんは食事中だけどスマホを取り出して、カレンダーを見た。
　そして「あ……」と小さく漏らす。
　お姉ちゃん、最近忙しそうにしてたし、もしかして忘れてた……？
「ふふっ……ごめんなさい。すっかり騙されてしまったわ」
「よ、よかったあ……。お姉ちゃんすっごくさびしそうな顔するから」
「顔に出てしまってたかしら」
「うん！　なんか泣いちゃいそうに見えた！」
「あら。……恥ずかしいところを見せちゃったわね」
　あ、お姉ちゃん照れてる。ちょびっとだけほっぺたが赤くなった。すっごくかわいい。
　でも私がいますべきことは、かわいいかわいいってテンションをあげることじゃない。
「お姉ちゃん、ごめんね。もう嘘でも甘えるの卒業するなんて言わないよ。私はこれからもず〜っとお姉ちゃんに甘えちゃう♡」
　隣に座ってるお姉ちゃんにギュってすると、抱きしめ返してくれて頭も撫で撫でしてくれた。
　何となくいつもより抱きしめてくれる力が強い気がするけど、気のせいかな？
「もう。少しはやめてみてもいいのよ？」
「んー、そうしたくなったらね♪」
　来年からはしっかり考えて、お姉ちゃんを楽しませることができるようなイベントにしなくちゃ。
　安易なエイプリルフールはもう卒業しようと決めた、そんな年になったのでした。