「私ばかりが、貴方を好きみたいで、馬鹿みたい」
　そう言って涙を流すヴィルシーナさんを見て「やってしまった」と素直に思った。
　私は私なりに彼女を愛している。
　けれど私から特別そのことを口にするかというと、違う。ヴィルシーナさんが私の隣にいるという状況で、十分に幸せな私は愛の言葉を疎かにしてしまう。
　言わなくても伝わっていると、あぐらをかいてしまっていたようだ。少しの驕りが大きな災いを招くことは痛感してきたというのに。
　しかしそれはそれとして、私の愛を理解しきれていない彼女に少し腹が立つ。
「ヴィルシーナさん」
　涙を流していても美しいそのヒトに手を伸ばして、私の腕の中に閉じ込める。
「貴方は私の愛を、わかりきっていないのですね」
「口にされなきゃ、分からないこともあります」
「口に……ああ」
「えっ──」
　幸い周囲には人気はない。
　一番わかりやすい方法で、私は彼女に愛を伝える。
　唇を塞ぐという、最上の形をヴィルシーナさんに示した。
「え……ええ！？　あ、あの、もう！　何なんですか！！　私ジェンティルさんに対して怒ってますし、悲しくもあって……！！」
「まだ足りませんか？」
「足りるとか、足りないとかじゃ、そういう問題じゃなくて」
「そうですわね……。今夜空いていらっしゃるのでしたら、ディナーはいかが？　夜景の綺麗な場所を知ってますの」
「えっと……」
「そのあとはホテルのスウィートに泊まりましょうか。朝は宿泊者専用のコースで一緒に走りましょう。プールで泳ぐのもいいですわね」
「わ、わかりました。わかりましたから……！！」
「ふふっ」
　私から少し伝えただけでこんなにも可愛らしい反応をしてくれるだなんて。
　これからも特段態度を変えることはないだろう。
　けれど泣かせることはないように、せめてそれくらいは気をつけてあげなくては。
　腕の中にあるぬくもりを逃したいわけではないから。