「グラスー！　ただいまデース！！」
「おかえりなさ……エル、部屋に入ってこないでください」
「ケェ！？　どうしてデス！？」
　私の言葉にエルは目をまんまるにする。その姿にため息が一つこぼれ落ちた。
「泥だらけなんですから当たり前です。もう、どうしてそんなに汚れて？」
「雪合戦してました！！」
「雪合戦……」
　そういえば昨日の夜に雪が降ったことを思い出す。ただ雪合戦ができる程に積もったかと言われると、エルを見れば明らかだ。
「泥の混ざった雪玉を投げた、というところでしょうか。ジャージで遊んだところだけは褒められるけど……」
「えへへー、褒められちゃいました」
「もう、調子がいいんだから。部屋に入る前にお風呂に行ってください」
「はーい」
「あ、マスクはこちらで預かります」
「えっ……」
　私の言葉を素直に聞いてお風呂場に向かおうとするエルを呼び止める。マスクを預かると言われたエルはこの世の終わりみたいな顔。
「マスクも泥だらけですよ。洗っておいてあげますから」
「えー……。このままお風呂は駄目デス……？」
　視線を斜め下に落として、嫌だという雰囲気を隠さないエル。この子が人前でマスクを外すのを嫌がるのはわかっているけれど、流石に泥まみれなものは見逃せない。
「新しいマスクをお風呂につけて行ってもいいですから、そちらは私に預けてくれませんか？」
「んー……、それなら、いいデス。グラスにだったらマスク、預けてもいいデスし」
「ありがとうございます」
　エルのクローゼットから新しいマスクを取り出すと、エルは付けているものを外した。
「少し待ってください」
　ハンカチで顔に付いてる泥を拭ってあげる。
「グラシアス！　お風呂いってきます！」
「いってらっしゃい」
　エルの大事なマスクを受け取って、エルがいつも使っている洗剤を取り出す。髪や尻尾の手入れは少し雑なのに、マスクを洗うのにちょっと気を使っているエルの姿が珍しくて、一緒に見ているうちに手順は覚えた。
（少し迷ってはいたけれど、大切なマスクを預けてくれるようにはなれた……ということでしょうか）
　エルとは仲が良いとは思っているけれど、それでもまだ触れられたくない部分、許せない部分はあるもので。
　エルにとってこのマスクはとても大切なものだと聞いていたから、預けてもらえたことが嬉しい。
「エルがお風呂から出てきたら、お茶を淹れてあげなくちゃ」
　エルはたくさん遊んでぽかぽかしてるだろうけど、体は思いの外冷えるものだから。
　今日は少しだけ、エルを甘やかしたい。
　そんな気分。