時々タイキが寂しそうにして「一緒に寝てくだサイ」ってお願いしてくるから、一緒に寝ることはたまにある習慣になっているけれど、今日は特別な日。
　お風呂から上がって髪をいつも以上に気を使って乾かして、しっぽも同じく丁寧に手入れをする。最後にタイキが好きだと言ってくれた練り香水を首の後ろにつければ、準備は万端。
　目の前にはベッドの上でそわそわとした様子のタイキがいる。
「それじゃ、寝よっか」
「イエー！　ドーベル、早く早く！」
「もう、焦らなくったっていいのに」
　タイキは大きな体をベッドの端っこに追いやって、アタシが入るスペースを作ってくれる。
　ベッドに入るとタイキは早速アタシの髪をサラサラと撫で始めた。いつもみたいに、とても優しい手で。
「サラサラで気持ちいいデス。くんくん、いつもと違うニオイがします」
「練り香水じゃないかな」
「ナルホド。甘くて落ち着く、大好きなニオイデス」
「あ、ちょっと。くっつきすぎ」
　くんくんとタイキがうなじの辺りにまで密着してくるものだから、これは流石に恥ずかしいので押し返す。それでも首筋にタイキの鼻息を感じて、その部分が熱くなってしまう。
「少しくらいいいじゃないデスカ」
「だ、駄目。流石に無理」
「ドーベルがどうしてもって言うなら、我慢シマース」
　少ししょんぼりとした声にとても小さな罪悪感が芽ばえたけれど、あまり甘やかすとタイキはすぐに調子に乗っちゃうから、ここは厳しくいかなくちゃいけない。
「今年もドーベルと一緒のバースデーを過ごせて、私はカホウモノデス」
「アタシも、タイキと一緒で良かったって思ってるよ」
「ハピネス？」
「うん、ハピネス」
「アイムソーハッピー！」
　ギュウってタイキがアタシを抱きしめる力を強くする。力加減は苦しくないギリギリ。ただ顔がタイキの胸に埋まってしまうから、結局は息苦しくなってしまうのだけれど。
「タイキ、胸に顔押し付けるのはやめて」
「ソーリー。これでいいデス？」
「大丈夫」
　アタシの頭を抱え込んでた手を解いてくれたので、これで一安心。
「あのね、今日は嬉しかったよ」
「嬉しかった、デスカ？」
　アタシが脈絡もなく言った言葉に、タイキは「はて？」といった反応。そりゃそうか、とくすりと笑みが溢れてしまう。
「タイキが、言ってくれたでしょ？　アタシの誕生日は忘れないって」
「アー、イエース。確かに言いました。ドーベル、嬉しいデスカ？」
「うん。いつもは忘れっぽいくせに、誕生日は絶対に忘れないって、大切なヒトが言ってくれたんだもん」
「ンフフ、トーゼンデース。ドーベルはワタシの大切な日本のファミリーデスカラ」
「アタシも、タイキはもう家族と同じくらい大切だよ」
「イエー、ハピネース！」
「わっ」
　タイキはさっきアタシが言ったことを忘れて、胸に埋めるように顔を押し付ける。
　本当に忘れっぽいんだから。
　けれど愛おしいと思う気持ちのほうが強くて、アタシは苦しさを我慢してタイキを抱きしめ返した。
　今日はタイキの誕生日。
　いつもと同じようで特別な、そんな夜。