グラスちゃんの髪って甘くて美味しそう。そう思い始めたのはいつ頃だっただろう。
　ミルクティー、カフェオレ、モンブラン。それらは全て、なんだかグラスちゃんを連想する。だから自然とそれらを食べることが増えた。
　今だってミルクティー味の飴を口の中でコロコロと転がしていた。
「あらスペちゃん。間食ですか？」
「うん。ミルクティーの飴だよ。舐める？」
「ありがとうございます」
　私が飴を差し出すとグラスちゃんは嬉しそうにそれを受け取ってくれた。
「これ、お返しです」
　そう言ってグラスちゃんがくれたのは抹茶味のミルクキャンディ。私が前にミルクキャンディが好きだって言ったの、覚えててくれたのかな。
　放課後になって、今日はグラスちゃんと放課後デート。場所はケーキが美味しいという喫茶店。
「グラスちゃんは何にする？」
「そうですね……抹茶のティラミスが気になります」
　ここでも和の関係するものを選ぶグラスちゃん。それがとてもグラスちゃんらしくて微笑ましい。飲み物はほうじ茶があってそれにするみたい。
「私は……」
　メニュー表を見ると、モンブランの文字を見つけた。それにロイヤルミルクティーの文字も。
「すみませーん」
　手を上げて、店員さんを呼ぶ。エプロン姿の店員さんが注文表を持って、すぐにこっちに来てくれた。
「モンブランとロイヤルミルクティーをお願いします！」
「私は抹茶ティラミスとほうじ茶をお願いします」
「モンブランにロイヤルミルクティー、抹茶ティラミスにほうじ茶ですね！　かしこまりました！」
　店員さんが厨房の方へと戻っていくと、グラスちゃんがじーっとこっちを見てくる。
「グラスちゃん、どうしたの？」
「いえ。スペちゃん、最近モンブランとかミルクティーとかよく注文してるなぁと思いまして」
「へ！？　あ、うん！　ハマっちゃって！」
　グラスちゃんを連想するから何となく頼んじゃうだなんて口が裂けても言えなくて、私は適当に誤魔化すしかなかった。
　グラスちゃんに私の食べるものについて指摘されてから半月くらい経ったある日。グラスちゃんは風邪をテストを欠席してしまって、補習を受けることになった。私はたまたまその日は補習を回避していて、トレーニングへ。
　一緒に帰りたくて、トレーニングが終わってからグラスちゃんが補修を受けてる教室に向かった。
「グラスちゃーん！　迎えに……あっ」
　教室のドアを勢い良く開けると、ノートを広げたまま机に突っ伏して寝ちゃってるグラスちゃんがいた。
「補修のあとにまだ勉強してたのかな」
　グラスちゃんに限って補習中に寝たなんてことはない。遅れを取り戻そうとして、残っていたとしか考えられない。
「グラスちゃん、病み上がりなのに」
　頑張り屋さんなグラスちゃん。そんなグラスちゃんが大好きだけど、病み上がりくらいもう少し肩の力を抜いてほしい。
　よく頑張ってるねって頭を撫でてあげる。勉強で力になれないことがもどかしい。頭を撫でていると視線は自然と髪に行ってしまう。
（あっ……）
　美味しそう。またそう考えてしまった。さらさらで、飴細工にも似てて、食べちゃったらどんな味がするんだろうって。
　そんなことをするわけにはいかなくて、さらさらとグラスちゃんの髪を梳いて手イタズラで誤魔化す。
（うぅ……考えちゃったら、なんか、なんか……！！）
　髪に口付けるくらい、許されるかな。
　お願いグラスちゃん、起きないでね。
　一房分くらいを自分の方に引き寄せて、グラスちゃんの髪に唇を寄せる。
（これで我慢するから）
　食べてみたいなっていう思いは、これで収めるから。
　明日からはまた貴方を連想するもので、口を慰めるから。