スズカさんの誕生日。みんなでいっぱいお祝いして、私達は部屋に戻ってきて明日の準備。
「スズカさん、この連休はどうするんですか？」
「そうね、大きなレースも近いから家には帰らないかな」
「ですよね。私もレース近いし、スズカさんと一緒に走ろっかなって」
「ふふっ」
　特別だけれどいつも通りの日常。スズカさんの誕生日という特別な日が、終わってしまう。さみしい。今年もこのままいつも通りに終わってしまうことが。
　このまま終わってもいいのかな。ううん。言い訳がない。だって、私はスズカさんのことが大好きだから。
「あの、スズカさん」
　呼びかけて、スズカさんの声が返ってくる前に距離を詰めて手を握る。
「スペちゃん……？」
「私、スズカさんとキス、したいです」
　ずっとずっと思ってた。
　スズカさんと結ばれてからもうすぐ一年が経つけれど、私が照れちゃったり大事なレースが重なったりしちゃって、タイミングを逃し続けてきた。
　今日はスズカさんの誕生日。特別な日に特別なことをするにはもってこいの日。
　私の言葉を聞いて、スズカさんは透き通った白い肌に紅を差す。ほんのり赤くなっている頬はりんごみたいで美味しそう。
「スズカさん、ダメ、ですか？」
「……」
　スズカさんは答えてくれない。でも瞳は何かを思案しているように見えて、私はドキドキしながらスズカさんの言葉を待つしかなかった。
　私が握っているだけだった手に力が込められて、ぴくりと私は震える。
「スペちゃん、私もね、スペちゃんとキスしたいの」
「スズカさん……！」
「でもね、あと少しだけ待ってて？　あと2時間もすれば日付が変わるから」
「……あっ」
　言われて時計とカレンダーを交互に見る。あと二時間で明日。明日は――。
「私の、誕生日」
「うん。私の初めてのキスを、スペちゃんに送りたくて」
「スズカさん……！！」
「きゃっ」
　嬉しくてぎゅっとしたら、勢い余ってベッドに倒れ込む。瞳が合うとくすくすと私たちは笑ってしまった。
「スペちゃん、大好きよ」
「はい、私もスズカさんのこと、大好きです」
　手のひらを重ね合わせてぎゅっと握る。ドキドキとスズカさんの心音が伝わってきて、きっと私のも伝わってる。
　あと二時間。
　誕生日の前は楽しみでワクワクして、でも寝ちゃってた。
　初めての眠れない誕生日前夜。スズカさんという、大切で最愛な人と過ごす二時間。
「幸せだなぁ……」
「私もよ。走ること以外でこんなにも幸せな気持ちにしてくれたのは、スペちゃんが初めて」
　こつんと額を合わせる。いいのかな、こんなに幸せで。
　愛しいという気持ちが溢れだして、今にもキスしたいけれど、我慢しなくちゃ。