「パパァ……ママァ……」
　ぐすんぐすん。タイキが故郷恋しさに泣いている。
　初めて見たときは固まって、何をしてあげたらいいんだろうとアタマを悩ませたっけ。今だって何をしてあげるのが正解かなんて、わからない。
　ただ──、今の私は少しだけ踏み込めるようになった。
「タイキ」
「ドーベル……？　起こしちゃいマシタ？」
「ううん、大丈夫」
　今は夜中。ちょうど日付が変わったばかりくらい。タイキは枕元の常夜灯がついたのを、少し眩しそうに目を細めた。
　私はベッドから抜け出して、少し明るくなった部屋を歩く。向かうのはもちろんタイキのベッド。
「タイキ、一回寝たら朝までぐっすりなのに珍しいね」
「夢、見ました。パパとママとシスターたちとバーベキューする夢」
「そっか」
　故郷の夢を見て、たまたま目を覚して、恋しくなっちゃったってところかな。よしよしとタイキの頭を撫でる。
　前まではタイキがこうして一人で泣いているとき、アタシは見ていないふりをしてあげていた。
　でもそれじゃ駄目だって思うようになって、勇気を出してからはこうしてタイキが安心できる事をしてあげている。
「ドーベルの手、あたたかいデス」
「タイキの髪はふわふわだね」
「んふふ、ドーベルがお手入れ手伝ってくれてますから」
　さっきまで寂しく震えていた声は、ふわりと落ち着いた声に。少しは気が紛れてくれたのかな。
「ドーベル。このまま一緒に寝てクダサーイ」
「うん。いいよ」
「えへへー」
　幼さの残る可愛らしい笑みを浮かべるタイキに胸がキュンとする。出会ったばかりの頃はタイキに熱烈なハグをされるだけでも慌てて逃げ回ってたアタシだけど、踏み込む勇気を持ってからは少しだけ慣れた。
　ほんとにちょっとだけ。
「おじゃまします」
「ウェルカム」
　タイキがベッドの隅に行ってくれたので、空いたスペースにすっぽりと体を納める。タイキの方から腕が伸びてきて、ぎゅっと抱きしめられればいつものスタイルの完成。
「ドーベル、暑くないデスカ？」
「大丈夫。タイキもいつでも言ってね。エアコン下げるから」
「ノープロブレム。ドーベルの体温、大好きデスカラ」
「っ、その言い方はちょっと恥ずかしいかな」
「うふふ」
　タイキは悪戯に成功して嬉しそうにころころと笑う。いつもよりほんの少しだけ早かった鼓動が早くなる。ちょっと暑くなってきちゃったかも。
「ドーベル、明日は暇デスカ？　トレーニングは？」
「明日はお休みだよ」
「グッドタイミング！　ワタシもデース」
「なら明日はどこか行く？」
「ふふっ、ワタシもそう言おうと思ってマシタ。グラスがオススメしてくれた和菓子ショップに行きたいデス」
「ん、わかった」
　明日はゆっくりするつもりだったけど、お休みが被っているなら出かけない手はない。放課後にクレープを食べに行ったり、カフェに行ったりとかはしてるけど、限られた時間の中ではどうしてもどこか忙しないから、こうした時間は大切にしたい。
「他には？　行きたいところない？」
「ドーベルは行きたいところないんデスカ？」
「そうだな……、紅茶の茶葉見に行きたいかな。水出しでも美味しいやつ」
「グッド！　ドーベルの紅茶はとっても美味しいから楽しみデース！」
「ありがとう」
　明日に楽しみが増えたからか、タイキはもうすっかりいつものタイキに戻ってる。
　よかった。さみしがりのタイキの気持ちが少しでも晴れてくれたなら、アタシも嬉しい。
　それから眠くなるまで他愛のない会話をしていたら先にタイキが寝ちゃって、アタシもつられるように眠りに落ちた。