グラス×エル

 エル、エル、エル。
 お願いだから、目を覚まして。
 スズカ先輩とのレースを終えて、限界だったエルは倒れて救急車で運ばれた。
 生きた心地がしない。命に別状があるわけではないとわかっていても、エルがこんなふうになったのは初めてだから。
 トレーナーさんにお願いをしてエルが目を覚ますまでそばにいることを許してもらって、私は眠るエルの手を握り待つ。
(ずっとそばにいたのに、私は、エルのことわかっていなかった)
 くやしい。彼女のことは何でもわかった気になっていた、自分自身を叱りとばしたい。
 信じるという言葉に甘えていたのではないかと。
 お願い。また私の目の前に立ちはだかって。私の超えるべき壁として。
 そして、寄り添う友人としてそばにいて。
 目頭がじわりと熱くなる。大丈夫なのに。きっとエルは目を覚ますのに、泣くなんてみっともない。
「エル……」
 絞り出した声は震えていた。弱気になった心の音色が溶け込んで、呼応するようにまた視界が潤む。
「大丈夫。貴方は、大丈夫ですから」
 それは、自分に言い聞かせるように。
 ああ、私はこんなに、弱かっただろうか。
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