エル×グラス

「グラスー!! こっちから花火っぽい音がしまーす!!」
 二人で夜まで走り込みをしていたら、エルが突然走り出した。確かに遠くから何かが弾ける音がする。
「この辺りでお祭りはなかったはずですが……?」
 しかし私もエルも聞いているということは幻聴ではないはずで、私はエルの後ろを付いていく。エルのナビゲートで走っていると、遠目に火の花が咲いているのが見え始めた。
「あんなところでお祭りなんてありましたっけ?」
「うーん、記憶にないですねえ」
 お祭りがあったところで私たちは手持ちがないので、雰囲気を楽しむだけで終わってしまうけれど。
 音と上がっている花火を目印に少しでも距離を縮めようと歩みを進める。潮の香りが次第に強くなっていって、気がつけば海沿いを走っていた。
 立ち止まって花火を眺めているヒトは増えたけれど、皆普段着。これは一体。
「あ」
「グラス?」
「思い出しました。今日は海で事故が起こらないようにと願いを込めて花火を打ち上げる日です」
「へー」
 程よく見える場所まで走って、柵に体を預けてゆっくりと花火を見上げた。
 空に咲く色とりどりの大輪の花。その中にはキャラクターなども混ざっていて、バラエティに富んでいる。
「うふふ、綺麗ですね〜」
「ビッグな花火がヒュー!! どぱーん!! とっても派手で豪華デース!!」
 夏のレースに向けて二人で走っていたのだけれど、とても良いものが見られた。打ち上がる花火と、その明るさに照らされるエルのキラキラとした瞳がとても可愛い。
 花火を見ながら時々エルの横顔を盗み見ていたら、エルがぴたりとくっついてきた。
「エル?」
「えへへ、思わぬデートができて嬉しいデス」
「……そうですね。エルと一緒に走り込みができるだけでも嬉しいですけれど、こうして特別な時間を過ごせるのは、特別に嬉しいです」
 くっついてきたエルの腕に己の腕を絡める。少し暑いけれどこうしていたかった。
「グラスー。また花火、二人きりで見ましょうね」
「ええ、喜んで」
 いつとは決めないエルとの約束。
 次に貴方とこうして花火を見るのはいつになるのか。
 それはまだわからない。
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