目を開ければあまり見慣れない白い天井、横を見れば白いカーテン。自分のいる場所を把握して、次に自分がどうしてここにいるのか考える。
「うーん、何ででしたっけ」
　考えてみるものの頭がぼーっとしてしまう。モヤがかかったような、うまく思い出せない。いや、後頭部が痛い気がする。なんでだっけ。頭打ったことはわかったけど、なんで、どうして。
　気になって仕方がなくて起き上がってみる。別にぐらぐらふらふらはしなかったから、先生がいれば聞いてみよう。
　ベッドから降りてカーテンを開けると、ものすごく近くに青色の瞳と、栗色の毛。
「わぁ！！　グラス！？」
「エル。……起きてて大丈夫なんですか？」
「うん、平気」
　グラスは一瞬目を大きく見開いたけど、すぐにいつもの柔らかな顔に戻った。アタシは平気だって言ったのに、肩を押されてベッドに座らされてしまった。グラスも隣に座る。
「頭を打ったんですから、平気でももうしばらくベッドにいてください。先生は今エルのトレーナーさんのところです」
「そうなんデスか。あの、グラス？　アタシってなんで保健室にいるんでしたっけ？」
「覚えてないの？」
「うーん、ちょっと思い出せないデス」
「あとで精密検査決定ですね。エル、貴方は体育の授業でダンクシュートを決めたときに着地に失敗したんですよ」
「ダンクシュート……」
　体育の授業。ダンクシュート。ということはバスケ。あ、なんだかちょっと思い出してきたような。
「汗で手でも滑ったんでしょう。ツルッといって、そのまま後ろ向きに」
「あ、あああああ！！　そうデス！！　そう！！　ダンクした勢いそのままで！！　ずでーん！！　ごつーん！！って！！」
「保健室では静かに」
「きゃん！！」
「エル？」
「い、今のは不可抗力デース」
　しっぽをぎゅうって掴まれてしまった。ついでに理不尽に怒られた。痛いけど今のはエルエルが悪いので仕方ありません。
「いやぁ……いつもは平気なんデスけど」
「いつでも同じようにとはいかないものですよ。慢心ですね。そもそもダンクシュートは普通のプレーよりも危険を伴うのですから、控えた方がいいと思いますが」
「うぅ……お恥ずかしいかぎりデェス……」
　グラスのお小言が続く。アタシ一応病人なんデスけど。
　でも、知ってる。このお小言は、心配の裏返しだって。
　うんうんってちゃんと聞いてたら、隣に座っていたグラスが突然肩に顔を押し付けてきた。
「グラス？」
「流石に今回ばかりは肝が冷えました。本当に、次からは気をつけてください」
「……はーい。心配かけて、ごめんなさいデス」
　声がいつもよりちょっとだけ低い。
　こんなふうに素直に心配を出してくるのは珍しくて、それだけグラスを心配させちゃったんだって、これは本気で反省しなくちゃいけない。
　アタシはお詫びの気持ちを込めて、頭を撫で撫で。
　先生たちが戻ってくるまで、そうしていた。