「あ」
「あら」
　エルが納豆にかけていたホットソースが、私の食べようと思っていたお刺身定食にべったり。赤く染まったマグロのお刺身は色も相まって軽いスプラッタ。
「エル？」
「ひっ！」
　笑顔は崩さず圧は多めに。目の前のエルはひくひくと顔を引きつらせて、さてどうするつもりなのでしょうか。
「ご、ごめんなさいデース！！　ソーリー！！　ロシエント！！」
　椅子の上に正座して、平伏する。土下座の体勢。あらまあ。
「エル、そこまでは求めてませんよ」
「ふぇ？」
　土下座は明らかにやりすぎだから、それは諌める。既に注目を集めてしまっていて、ムズムズとする。
　顔を上げたエルは耳をぺたんと下げて、今にも泣き出しそうな顔。
　ひとまずきちんと座らせる。
「ぐ、グラス？　怒ってる？」
「怒ってはいます。何度言っても直りませんし」
「うぅ……」
「エル。あなたの好みにはもう口出しはしませんが、私の好みを汚すことだけは許しません。こちらのお刺身はエルが責任を持って食べてください」
「スィ」
「その代わりエルの玉子焼きとおひたしはもらいますから」
「どうぞ！」
　ホットソースで染められていないおかずと交換してもらう。今日はエルが和風の定食を食べているときで良かった。
「ホットソースを使うときは、勢い良く振らないでください」
「スィ！」
「復唱してください」
「もうエルエルはホットソースを勢い良く振りません！！」
「ふふっ、良くできました。冷めないうちにいただきましょう？」
「はーい！」
　エルは手のかかる妹みたいで微笑ましい。たまにおいたが過ぎるけれど、それもまた愛嬌だと思っているのはエルには内緒。
　二人並んで手を合わせて、美味しい時間がようやく始まった。