グラス×エル

 身を焼くような暑さが続く夏の日。北海道にいたときのあの涼しさが恋しくなります。こう危険な暑さが続いてしまえば野外でのトレーニングは中止。今日は先輩に併走をお願いしていたというのに、申し訳がなかった。
 学園から寮に帰るまでの道ですらキツい。殺人的な暑さが身を焦がす。頭に直射日光が照りつけて、急場しのぎでハンカチを頭に乗せてみるものの、気持ち和らぐ程度でした。
 寮に到着すると中は冷房が効いていて、涼しさに身体に纏わりついた暑さが逃げていく。私は寮の自室までまっすぐ歩き、部屋の扉を開けた。
「ただいま戻りました……」
「あっ、グラスおかえりなさい!」
 ルームメイトのエルが先に部屋に戻っていたようで、エアコンの効いた涼しい部屋でアイスキャンディーを食べていた。甘いもの苦手でも暑さにはやはり勝てないのでしょうか。
「美味しそうですね〜」
「んー、美味しいケド、でもやっぱり甘いもの苦手だから、そろそろ限界デスよ。グラス、残り食べて?」
「は〜い」
 私とエルはよくアイスを半分ずつ食べる。私にとっては食べ過ぎ防止に、甘いものが得意ではないエルにとっては食べ残し防止となって、お互いにWin-Winというやつです。
「あと一口だけ」
 しゃくりと良い音を立ててエルがアイスにかぶりついて、私に残りを差し出してくれる。はい、それでは、遠慮なく。
「いただきます」
「ケッ!?」
 あら、どうしてエルは大きな声を出しているのでしょうか。
 エルの口の中にあったアイス、食べちゃ駄目だったのかしら。だって、残りをどうぞって。
「ぐ、グググ、グラァス!! こっち!! こっちデスよ!?」
「あら〜?」
「あーもう!! 暑くて頭沸騰しちゃったんデスか!? ほら、こっち! こっち食べる! イーティング!! セイッ!!」
「んぐっ」
 半ば無理やりアイスキャンディーが口の中に押し込まれる。ひんやりとして爽やかな味が、また口の中に広がっていく。
「うぅ、せっかくアイスでひんやりしたのに、とってもホットデスよぉ……」
 エルがふらふらと部屋を出ていってしまう。
 私、何かいけないことをしてしまったのでしょうか。
3/8ページ
スキ