君と僕の
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《君と僕の終焉》
「…終わったな」
死体を片付けた。
どこに、とか。どうやって、とか。
そういうのは、彼女は知らないままでいい。
『……』
「全部思い出したくせに、なんで俺を庇った?何故信じた?何故その決断を下した?」
彼女は、俺と共に組織に残ることを選んだ。
今まで通り、ハッカー兼プログラマーとして。
『…守ってくれるって、約束した』
「………」
『好きだって、いってくれた』
たどたどしい言葉とともに、いつもの地下室へ戻ってきて。
彼女は馴染んだ無機質なデスクに、スノードームを飾る。
「…」
『それも、うそ、だった?』
不安げに揺れる瞳は、出会った頃のまま。
幼く、無知で、澄んだ黒。
「…嘘じゃねぇよ。お前さえ、赦せるなら」
赦されるとは、思っていない。
けれど、彼女をもう一度抱き締められたなら…そう願っている自分もいる。
好きになったのは事実。
守ってやりたいのも事実。
今までも、これからも、ずっと。
『………なら、手放さないで』
「…っ」
『何もかも奪ったなら、私に与えたものは、奪わないで。私が好きになった人も、愛される喜びも、奪わないで』
彼女は、そう言って泣き出した。
恐々とその背中を抱き締めれば、痛いくらいに抱き締め返されて。
『ジン、』
か細い声は、コートに吸われていった。
「…」
『──』
そんな騒動を、ベルモットと共に片付けた後。
「ああ、明日は休みだ。……海でも行くか?」
『─!!』
彼女は、また声が出なくなってしまった。
今までのように、声も出さず、ただ楽しそうに口をパクパクさせる。
「…けどなぁ、声が出ねぇ以上危ねぇから、深いところまでは行かせねぇぞ。浜辺と浅瀬で我慢しろよ」
『!』
海に行くのがよほど嬉しいのか、何度も首を縦に振った。
「しかしまぁ、なんで記憶はあるのに声は出なくなっちまったんだろうなぁ」
そう、ふと疑問点を漏らせば。
困ったように笑って、彼女はパソコンの画面に文字を打ち出す。
『鶴も鳴かずば撃たれまい?』
「…なるほど」
人間誰しも、言葉にすればボロがでる。
今まで通りを望む彼女なりの、…無意識のリスク回避なのだろう。
「……水着、買いに行くか」
『ー、…!』
「あ?俺は着ないぞ」
『…?』
「丸腰じゃ、お前を守れねぇこともあんだろ」
彼女の表情はコロコロ変わる。
なんだよ、そんなに一緒に泳ぎたかったか。
『…?…?』
「いいんだよ、俺は泳がなくて。泳げないわけじゃない。てか、水着要らないのか?」
「…!」
『ほら、店行くんなら用意しろ。帰りにまた雑貨屋も寄りたいなら急ぐんだな』
一緒に楽しんでやるのも、必要なのかもしれないけれど。
彼女の身の安全が一番だ。
俺を選んだ以上、彼女も俺自身がどれだけ命を狙われているかは承知している。
だから、我が儘は言わない。
その分は他の事で補っているつもりだ。
『─!』
用意できた!と、袖を引く彼女を見下ろして、胸中苦笑した。
(この俺が、絆されるとは)
「なんだ、袖でいいのか?手じゃなくて」
『…っ』
「………お前が、繋いでくれるなら」
(あまつ、愛しいものを得るなんて)
『…』
「………行くか」
彼女の両親を殺したことは、後悔していない。
必要な任務だったし、彼らも処刑されるリスクを知っての裏切りだった筈。
彼女を生かしておいたのが、正しいか間違いかなんてのは、もう今更だ。
だから、これからは
(何も奪わない、奪わせない)
(与えられる人生を、送れるように)
─君と僕の終焉─
地下室で始まり地下室で終わるそれは
奪った僕と奪われた君が
与え、与えられる小さな物語
End
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