君と僕の
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《君と僕の決断》
銃声と共に、目の前の男は膝から崩れていった。
シャツを色濃く染める赤の量からして、死んだだろう。
「…」
『…っ!』
「…見るな。見なくていい」
引き金を引いた本人…俺の後ろに立っていた雨月も、脚を震わせて今にも座り込みそうだ。
そんな彼女の手に握られる空弾の拳銃をそっと抜き取って、彼女の視線と死体の間に割って入る。
「………なんて、言うべきなんだろうな」
『…』
「まずは、礼か。助かった」
『…』
「それから、そんなものを使わせて、悪かった」
ガタガタと震え、目を見開く彼女を。
もう、抱き締めてやるわけにはいかない。
彼女は全て知っている。
この手が、彼女の父を殺めたことも。
この手が、彼女の母を殺めたことも。
この手が、彼女の家を燃やしたことも。
この手が、彼女の声を奪ったことも。
「…逃げろ。何処へでも、お前の行きたいところで、生きたいように」
『…』
「歳の割に世間知らずだが、お前の能力なら食ってくのに苦労しないだろう。お前がハッキングの傍らに作っていた架空の戸籍、全部お前のものだ。好きなものを使って生きるといい、こっちでは研究室ごと始末しておく」
『………』
「………仮住まいにはアテがある。早いとこ出るぞ、片付けはベルモットに任せる」
見開いた瞳は、未だに揺れている。
けれど、それが落ち着くまで待つ猶予はない。
「…いっそ、今後を全て棒に振ってでも俺を殺したいほど憎いなら、それもいい」
『…!』
「俺はお前から何もかも奪ってきた…お前にも権利はある」
そう告げれば、彼女は一層ガタガタと震えて。
遂には静かに涙を流し始めた。
「…」
『……っ…ぃ……ぁ…っ』
「!?お前、今」
彼女の喉が、微かに音を発した。
嗚咽にしては…意思を持った音。
『…ぃ、…ゃ…』
「…嫌?」
振り絞るような、切ない響きが小さく紡がれる。
『もう、なにも、うしないたくない』
「…!」
すがり付くように、彼女は俺の背中へ腕を回す。
俺は彼女の背を抱き締め返せず、躊躇した腕が中途半端に上がったまま。
『ジン、あなたも』
「…っ」
初めて話したアンドロイドみたいな、拙い発音。
それでも、必死さだけは宿っていて。
「……もう、戻れないぞ」
『…』
頷く瞳は、強く強く輝いていた。
─君と僕の決断─
Fin.