君と僕の
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《君と僕の歯車》
気づいてしまった。
気づいたことに、気づかれてしまった。
「………憎いか」
『……』
「聞くまでもねぇな」
今まで、私を守ってきてくれた人は。
私から何もかも奪った人だ。
お父さんも、お母さんも。
家も、友達も。
人生も、声も。
『……』
「……ここから逃がしてやる。けど、さっきの奴らがまだ動いてるかもしれねぇから、それを片付けてからだ。今は、大人しく隠れていてくれ」
憎いか。と聞く癖に。
それが当然だと判断する癖に。
彼に従うよう、私を諭す。
『………』
「そりゃ、信じられないよな。いい、信じろとは言わねぇ。だが、よく聞け、理解しろ。お前は死んだことになってる…お前の両親と共に」
『…!』
「俺達は、お前が生きてることを隠してきた。どこでバレたか知らねぇが…さっきの奴らは、お前を殺して手柄をたてようとしてる。俺を反逆者に仕立てるのも作戦の内だろう」
『……』
「……、俺はお前を生かす努力をしてきたつもりだ。だが、もし、組織を害するものになったら……殺さなければならない」
『…!』
「……大丈夫、お前が生き延びる方法は教えてやる。だから、俺を憎んでもいい、組織を敵に回すな」
こんこんと。
まだ状況を飲み込み切れない私に、彼は言葉を流し込んでくる。
「…ジン!今どこ!?」
そこに、ベルモットからのピッチが届いた。
「部屋だ」
「残党は確かにいなかったけど、個別に…誰か動いてるみたい。そっちに向かってる」
「研究室はバレてるのか?」
「おそらく。ただ、実物は見てないわね」
「お前は研究室を片付けろ。どの道戻れやしねぇ」
「迎え撃つつもり?コードネームは無いけれど、手練れよ」
「…上等だ」
「……護れるんでしょうね」
「はっ、言うまでもねぇ」
途切れる通話に、私も、事態が緊迫していることだけは把握できた。
「…………時間がない」
『…』
「信じてくれ、これが、最後でいい」
『…!』
そう呟く彼が、私に一つの拳銃を渡す。
「…一発しか入ってないが、全部終わって、俺が憎かったら……撃ってくれて構わない」
『…』
「それしか、信じてもらえる手段が思い付かないんでな」
その、重くて冷たい、黒い塊を手にして。
背筋を冷たいものが駆けていく。
これが、お母さんを殺した。
これが、お父さんを殺した。
これで……人を殺せる。
目の前には、親の敵。
「………来るぞ」
けれど、彼は、私を庇うように後ろへ隠して。部屋の後ろへ距離を取る。
シンプルな彼の部屋は、隠れる場所がない。
刹那。
扉が勢いよく開いた。
「…ノックぐらいして入れ」
「いやぁ、奇襲なんで。その子、渡して下さい」
拳銃構えた、若い男。
「ボスの信頼欲しいんで。お願いします」
ニヤニヤと。
銃口は私の視線より上……ジンを、狙っている。
「お嬢さんも、ご両親を殺したソイツは信用ならないでしょう?僕と来てもらえませんかね」
これが、交渉なのかわからない。
けど……お父さんが撃たれる時も、私はこうやって見てた。
何かを話してるのを、恐る恐る眺めていて。
……止められなかった。
「……生憎、コイツは渡してやれないんでな」
「任務失敗の汚点ですもんね。まあ、ハッキング能力として生かすのは賢明ですが。…いささか不用心かと」
「…」
「血も涙もないといわれる幹部様が、まさかご執心ですか?……へえ…?……、組織第一主義のアナタにしては、愚行ではありませんか」
男の目が、鋭くなる。
ジンが、僅かに身動ぐ。
私は、息を飲むだけ。
「……………無価値ですよ、今のアナタ。…始末します」
でも、そんなの、嫌だ。
『………っっっ!!!』
響いたのは、一発の銃声。
引き金を引いたのは。
この、わたし。
(あの時も、こんな、乾いた音だった)
君と僕の歯車
(やっと、動き出したんだと思う)
Fin.