君と僕の
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《君と僕の逢瀬》
『………っ!!』
「わかったから、ゆっくり選べ」
雨月とデート、らしいものに出向いた。
彼女はライトグレーのワンピース、俺はカーキのジャケット。
いつものコートで行こうとしたらベルモットに着替えさせられた。
今いるのは小洒落たカフェで、彼女はケーキが選べずに唸っている。
「何がいいんだ」
『ー、ーーー、ーー…』
「飲み物は決まってんのか」
『…、ー』
「そうか。……オーダー。エスプレッソと、これ。それからこれと、これと、これ、一つずつ」
『…!ーっ!!』
「あ?悩んでも気まんねぇだろ。オーダーは以上だ」
余りに必死に悩んでいるから、通りかかった店員に全部注文した。
雨月は驚いたような嬉しいような、困ったような。複雑な顔で笑ってる。
そうこうしてるうちに、俺のエスプレッソと、彼女のレモンティーが運ばれてきた。
遅れてベリータルト、ガトーショコラ、レアチーズケーキが届く。
依然申し訳無さそうな顔をしてた癖に、ケーキが運ばれてきた瞬間、綻んだように笑った。
(安い女だ)
彼女の幸せは2000円で買えてしまう。
美味しい美味しいと食べる彼女を眺めながら考えていれば。
『ー?』
一口どうぞ?と、ベリータルトをフォークで刺して差し出された。
(まあ、乗るのも悪かないか)
少し身を乗り出して、そのまま食べた。
フォークを受け取るか断ると思ったんだろう、目をぱちくりさせて、頬を赤く染めていく。
「甘いな」
このむず痒さは、今仕方飲み込んだベリータルトに似ていると思った
。
甘いのに酸っぱくて。苦味を仄かに引きながら溶けるように消える。
(ああ、柄でもねぇな)
尚も美味しそうに頬張る雨月を見ながら、やっぱり思う。
俺にこの無垢さは似合わない。
だが、守ってやりたいと。
『…?』
「そうだな。食い終わったら雑貨屋でも行くか。あの部屋じゃお前には無機質過ぎる」
会計を終えて目当ての雑貨屋に入れば、彼女は子供のようにはしゃいだ。
手にとっては眺め、戻しては眺め、金額を見て眉を寄せる。
「…買えばいいだろ。高くもない」
『⁉』
「あ?お前の稼ぎも俺の稼ぎも悪くない。滅多に外になんざ出ねぇんだ、ほしいものは手に入れとけ」
彼女は小遣いというものをわたされていない。だが、彼女の生活費はたかが知れてるし、このくらいの浪費は何てことないのだ。
「いいじゃねぇか、スノードーム。今はsnowだけじゃなくてmarineやblossomもあんだな」
彼女が手にしている透明な球体には、人魚が珊瑚に座って入っている。
そのまわりには小魚と音符が漂っていて、雪のかわりに海底に届く光のような粉が舞っていた。
(まるでこいつだ)
見えるのに届かない世界に閉じ込められて、何も知らずに笑っている。
声を代償に手にいれた何かが、幸せなのか不幸かさえも解らないまま。
ただ、知らないことが幸せなら、このまま何も知らないままでいて欲しい。
『ー?』
「そうだな、そのスノードームは買おう」
『……、…?』
「ああ。俺も気に入った」
嬉しそうな雨月を見下ろして、柄にもなく頬が緩んだ。
君と僕の逢瀬
それは、硝子詰めの悲哀と純真
fin