君と
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
《死すら別てない最愛の君と》
※[君と未だ]と[君ともし]の間をジン視点で
※転生もの
小さい時から、いつも誰かを探していた。
どんな人なのか、名前も、顔も解らないのに、その"誰か"に会いたくて堪らなかった。
「ジンにはきっと、運命の人がいるのね」
母はそう笑ってくれ、
「ああ、きっと可愛らしいお姫様なんだろう」
父もそう頷いていた。
そんな幻想的な解釈を許したのは、英国人と日本人のハーフという境遇かもしれない。
色素の薄い髪と緑色の瞳に生まれた俺は、日本では珍しがられたけれど、その分可愛がられもした。
「誰かを探してるけど、誰か解らない」
そんなことを口にしても、誰もあしらわないくらいには。
どこそこへ出掛ける度にキョロキョロと周りを見渡す俺に「今日会えなくてもいつか巡り会うさ、パパとママも出逢えたんだから」なんて、父が結構ロマンチストだったのも大きい。
まあ、キョロキョロしていたのは本当で。
幼い時は、近所のスーパーや公園。
小中学校となれば隣町くらいまで散歩とか遊びに行くとか理由をつけてブラついて。
高校生になったら修学旅行や遠征で、本題そっちのけで人通りを眺めていた。
大学生になれば、バイトで貯めた金は旅行に消えた。京都、奈良、沖縄。何故かそこで会える気がして…というか、その人と行った気がして、観光地の雑踏を観察していた。
それでも、その誰かには会えなかった。
とうとう就職して、探しに行く時間も取れなくなり肩を落とす。
こんなに会いたいのに、その人を覚えていないなんてどういうことだ。
ああでも、女性だ。
儚く笑って、可愛い我が儘を言って、手を…ずっと握っている、そんなイメージの沸く人。
(…会いたい、会って、話したい)
こんなに渇望するのだから、前世とかで深い縁があったんだろう。
でなければ、この、胸にぽっかり穴が空いたような…ずっと満たされない、寂しさを説明しようがないのだ。
(って言っても、どうやって探す?顔も名前も知らない女を)
今日は就職先の歓迎会だった。
終電に乗るための遅い時間を、駅に向かって歩きながらぼんやり考える。
初めての時間帯というのもあって、最早習慣になっている、人ごみの観察をしながら。
(こんなことを、もう、20年はやっているのに、まだ見つからないのか)
そう、思った時だ。
「なーぁー、一件だけ付き合ってよ」
『ですから、ご遠慮します!』
「いいだろ?なあ、いっぱいだけ!」
何やら揉めてる男女の声に目を向けて、ハッとする。
あの、女は。
『困ります!やめてください!』
「んだと!?俺の酒が飲めねぇのか!」
「…さっきからそう言ってんだろ。てめぇの耳は飾りか」
どうやら、酔っぱらいの男と若い女。
知り合い、というわけでも無さそうなので割って入った。
「関係ねぇだろ!誰だお前」
「……失せろ」
「あぁ?!」
「…聞こえなかったか?…失せろっつってんだよ、目障りだ」
女を後ろ手に庇って、酔っぱらいの狙いも定まらないヘロヘロのパンチを受け流しながら、ソイツの鳩尾に蹴りを入れた。
「…うぐ!」
「二度とコイツに近づくな。…あぁ、関係無いだったか?悪いな、コイツは俺の連れだ」
痛みのせいで踞ったまま起き上がれない男を放って、女を振り返る。
ああ、やっぱり。
(…雨月)
見れば、会えば解る。
ずっと探していた人。
手を離してはいけない、守らなきゃいけない奴。
(そうか、俺、前世も名前、ジンだったな)
(初めて喧嘩まがいなことをしたが、蹴りも上手く決まるはずだ)
(あんな、薄汚れた世界にいたんだから)
女の顔を見て思い出すことは山ほどあった。
自分の前世、彼女との関係、彼女の最期、自分の最期。
目まぐるしく脳裏を駆け巡る情報を処理しながらも、目は、待ち焦がれた彼女から離せないままで。
『あの…ありがとうございました』
そう言われるまで、ただただ見つめていた。
「いや…知り合いなら悪いことをしたと思ったんだが、違うよな?」
『はい。絡まれてしまっただけで、特に面識は』
「そうか。怪我は?」
『おかげ様で無傷です』
「なら良かった」
にこりと微笑む顔は、以前より毒気のないあどけないもの。
彼女もきっと、前世とは違って平和な世界に生きているのだろう。
けれど
「…俺を、覚えているか?」
『……?えっと…確かに初めて会う気はしないのですが、どこかでお会いしましたか?』
覚えていないらしい。
俺のことも、前世のことも。
「…俺も、初めて会う気がしなかったから、つい聞いてしまったんだ。名前は、黒澤ジンというんだが」
『そうですか。私は羽影雨月といいます』
(……知っていたさ。ずっとずっと前から、たった今、思い出しただけで)
「宜しくな。……駅まで送ろう、こんなのにまた絡まれても嫌だろう」
『ありがとうございます』
「女が遅い時間に一人で歩くもんじゃないな」
『いつもはもう少し早いんですけど…歓迎会で…』
「奇遇だな。俺もだ」
当たり障りのない会話をして、駅に着いた。
そう、駅に着いただけ、改札をくぐって無い中。
終電が、出発した。
「『…あ』」
二人の声は揃って落胆し、暫くの沈黙の後、雨月が口火を切る。
『すみません…助けて頂いたせいで終電が…』
「気にするな、明日は休みだ。始発で帰る」
『タクシー使わないんですか?』
「生憎新社会人でな。定期あんのにタクシー使える程蓄えは無いんだ」
『新社会人…もしかして、同期ですか?』
お互いの年を確認しあって、同い年であることと、雨月も新社会人で同期だと知った。
前世では年なんて大して気にも留めなかったから、年下だったと思う…くらいにしか覚えがない。
「悪い、てっきり学生かと思った」
『いえ…私も年上だとばっかり…』
顔を見合せて、どちらともなく笑い出す。
お互い、年相応にみられることは少ないのだと重ねて笑った。
「雨月は?タクシーで帰るのか?」
『私も持ち合わせ少ないので…寧ろ持ってたら貴方に渡してます。お礼に渡せたら良かったのですが…』
「助けたかったから助けただけだ、礼なんて堅いこと言うなよ」
『でも…何か…』
「ククッ、雨月も始発乗るんだろ?なら、それまで暇潰しの相手になってくれよ」
結局、俺たちは朝まで駅前のファミレスでコーヒーを飲んでいた。
明日はお互い休みだし、これといって用事もなかったから、焦ることも気負うこともなく他愛ない話をしながら。
『気になってたんだけど、ジンの髪は地毛?』
「ああ、父親が英国人でな。目も父親讓りだ」
『へぇー、綺麗だね。髪の毛伸ばしたらいいのに。きっと、凄く似合うよ』
「……。いつもは伸ばしてるんだ、ただ、日本は礼節というか身だしなみというか…うるさいからな。面接だのなんだのって節目節目で切っちまう」
『あーそっか、今回は就活で。じゃあ、暫くは伸ばせるね、伸びるの楽しみ』
にこりと、裏表の無さそうな、屈託ない笑顔を浮かべる雨月。
…覚えてなくて、いいのかもしれない。
優しく正しい世界で生きてきたなら。
血生臭い前世なんて、知らないままの方が、ずっと、幸せかもしれない。
俺のことも、忘れていたとしても。
俺だけ覚えていればいいんだ。
結婚式をちゃんとしてやる約束も、死んでも愛してるという誓いも、君と…まだしたかった未練たちも。全部。
『…あ、始発動くよ』
「そうか。気をつけて帰れよ」
『ありがと。…え?会計は?』
「済んでる」
『ちょ、お礼に払おうと思ってたのに!』
「暇潰し付き合ってくれたろ?その礼だ」
『それじゃ本末転倒でしょ!あーもう、連絡先ください!ちゃんとお礼するから!』
「ククッ、そう怒るなよ。雨月と話せて、本当に楽しかったんだ」
彼女と話すのも何十年ぶり、元気な彼女なんてもっと久しぶりで。
涙が出そうになるくらい、嬉しかった。
『……そんな顔で、笑わないでよ。これからも、もっと話せばいいじゃない。私だって、とっても楽しかったんだから』
驚いたように目を丸く開いて、それから優しく儚く雨月は微笑んだ。
生きてるんだな、そう実感して、余計泣きそうになるのを隠すように。
楽しみにしてる、と応えて始発に乗った。
出会いから間も無く、俺と雨月は同じビルにオフィスを構えた別会社に勤めていることが判明した。
混雑を避けるために出退勤が30分ずれていたから、今まですれ違わなかったようだ。
『あ!ジン!』
「…朝から元気だな、お前んとこは後30分後からだろ」
『そうなんだけど、ほら、この前のお礼渡そうと思って』
「…?タバコ?」
『うん。この銘柄吸ってたよね?』
なのに、朝、エレベーター前でソイツは待っていて。
見慣れたタバコのケースを差し出している。
「…」
『あれ?違った?』
「クク、いや?合ってるぜ、ありがとな」
『どういたしまして。タバコ高いもん、喫煙者は大変だね』
したり顔の雨月だが、俺はまた泣きそうになっていた。
現世、俺は喫煙者ではない。だから当然彼女の前でタバコなんて出していないのに。
よく見慣れた、前世の嗜好品を、差し出してきたのだから。
「…本当に、俺と会ったことないか?」
『前に?…うーん、ずっと考えてるんだけど、心当たりが無いんだよね。他人とは思えないくらい懐かしい感じするのに、不思議』
「そうか。本当に不思議だな」
覚えてないけど、忘れてもいない。
覚えてなくてもいいと思った手前複雑だが、嬉しかった。
『ああ、後、夜桜でも行かない?もう散っちゃうけど、今年まだ花見してないんだ、心残りで』
「行く。今日か?」
『え、今日いいの?』
「桜は散っちまうんだから、早い方がいいだろ」
『ありがと!じゃあ、仕事終わりにロビーで』
他人とは思えない、というだけあって、急速に距離は縮んでいく。
まだ出会って1週間だというのに。
『ジン、お待たせ。お疲れ様』
「お疲れ様。丁度タバコ貰ってたからな、待つにはいい時間だった」
『良かった。さ、早く行こ』
終業後、彼女は俺が来ている春物のコートの袖を引っ張って先を行く。
こんな行動だから、年下にみられんだ。
「……走ると転ぶぞ、ヒールなんだから」
『う…も、もう慣れたよ!』
「拗ねんな。心配してんだから」
『……ありがとう』
「ああ」
電車で数駅、徒歩十数分、散りかけの桜を前に人混みは大したことなくて。
夜空を背景にした薄いピンクをゆっくり眺めていく。
『…綺麗だね』
「ああ」
『…ねえ、変なこと言ってもいい?』
「なんだ?」
『ずっと前から、ジンとここに来たかった気がする』
見下ろした雨月の黒い瞳には、桜が映りこんで。
どこか想いを馳せるように瞬きをした。
「…俺も、ずっと雨月を連れてきたかった」
『ふふ、ありがとね、一緒に来てくれて』
「……俺は、来年も一緒に見たい…今度は満開で。それから、海にも行きたいし、祭りも行きたい、それから…」
俺も想いを馳せる。
あのとき、彼女が願っていたこと、俺が一緒にしたかったこと。
「…旅行も行きたいな。北海道と名古屋、まだ行ってないから」
『…』
「どうだ?そういう仲になって欲しい」
『…うん。私、もっとジンと居たい』
「ああ。俺も傍に居たい。…………好きだ、雨月」
もしかしたら、好きだと言ったのは初めてかもしれない。
前世では柄でもなかったし、甘さの似合わない生活だった。
だから、コイツが死ぬ間際になってから「愛してる」と誓いを立てて、息を引き取る瞬間に囁くくらいしか出来なかった。
…それも、後悔の一つ。
蔑ろにしたことは無いけれど、大切にしてやれたのは余命を宣告された後だったから。
『好き、ジン。ありがとう』
今度は。
悔いのないよう。
結果、俺は彼女の誘いには極力乗ったし、自分のしたいことにも彼女を巻き込んだ。
美術館、水族館、動物園、植物園、祭、映画、海、山、高原ほか諸々。
興味があっても無くても、共有できる思い出が増えるのが嬉しかったのだ。
前世より、融通がきかないことが多い。
限りある時間と金銭に悩むこともあったが、それが一層、思い出に色を添えた。
そうして過ごすこと1年近く。
「雨月、次の連休は何処へ行こうか?」
連休前お決まりの台詞。
彼女の退勤を待って、ロビーで合流しながら尋ねる。
行きたかった場所は粗方訪れただろうか。それなら、今行きたい所へ連れていきたい。
こんな平和な世界でも、明日どうなるかなんて解らないんだから。
『…うーん、ジンの家』
「俺の家?」
『そう、今、どんなとこに住んでるのか知りたい。…それに、どんな場所で育ったのかも』
「……」
『私達、色んな場所にいっぱい行ったけど、本当はあんまりお互いのこと知らないと思うの。何処へ行くのも貴方となら楽しいけど…もっとゆっくり、貴方を知りたい、私を、知ってほしい』
けれど、そう言われてハッとした。
俺は前世の彼女を覚えているから、性格や行動を既視感を持っている。
でも、彼女は『初めて会う気はしない』のであって、俺の全てを覚えている訳じゃない。
それに、俺が知っているのも前世のコイツであって、今の雨月ではないのだから。
「…ああ、そうだな。次の休みは、うちに泊まりに来い。俺も雨月を知りたいから、好きなものを、好きなだけ持って。それで、二人っきりでゆっくり過ごそう」
別れ際、迎えに行くから…と、彼女の横髪を撫でながら頬に触れた。
ちょっと期待した顔をする雨月を可愛く想いながらも。
「…だから、キスはそれまでお預けな?」
そう告げて、人差し指で唇を突く。
彼女は赤くなって『からかわないで!』と怒ってみせた癖に。
『……期待して待ってる』
と、拗ねたように はにかんだ。
彼女と過ごした連休は幸せだった。
好きな雑誌を、カーペットに寝転んで眺めたり。
手料理を振る舞ったり、振る舞われたり。
お気に入りの映画を見たり、音楽を聞いたり。
とても穏やかで平和な時間。
『ねえ、来週末も来ていい?』
居心地がよかったのは、お互いで。
あっという間に半同棲状態に。
(…こういう人生を、願ったんだよな)
膝の間に彼女を抱えて。
後ろから抱き締めながら、最近話題の泣ける映画なんてやつを見つつ考える。
付き合い始めて2年。
彼女は前世を全く思い出さないけれど、それでも構わなかった。
思い出さないから、彼女は"普通"でいられるのだ。
俺みたいに、いちいち彼女が呼吸してることに、体温を感じることに喜んだりしないで。
『…ジン、こういう台詞似合いそう』
「"君が僕の太陽だから"…って?」
『うん。気障なこと言っても寒くないと思うんだ。ふふ、惚れた弱みかな?』
映画のエンドロール、彼女は台詞を思いだして微笑んだ。
「…そんな生ぬるい告白しねぇよ」
『ん?それは期待値あがるよ?』
「構わねえ。それなりの答えは用意してくれんだろうな」
『そりゃあ…ねえ?』
悪戯めく微笑を、やんわり返して。
彼女をしっかりと抱きしめ直す。
『…?』
「雨月は、太陽じゃない」
『……』
「花でもないし空気でもない」
『…』
「お前は、お前だ。俺が愛した、女。今までも、これからも。ずっと」
『ジン…』
「この、安心する体温と、枯れない笑顔と、楽しそうな声があれば…此処に居てくれるだけで…十分だ」
腕の力を一度緩めて、彼女の顔を覗き込む。
赤らんだ顔で、ハクハクと声にならない口の動きをしたあと。依然赤い顔のまま、彼女は『ありがとう』と笑った。
「……なら、答えはyesだよな?」
結婚、してくれるだろ?
それから、驚いたように目を見開いて。
『当然!』
と、抱きしめ返された。
(もう少し、ムードのあるプロポーズがよかったか?)
(………いいか。俺たちは、普遍を願ったんだから)
夜、彼女は俺の隣で寝息を立てる。
呼吸にあわせて動く胸元、一定のリズムを刻む寝息、指先に籠る体温、それらを感じながら眠るのは、俺の密かな楽しみだった。
けど。様子がいつもと違う。
『…ジン…』
寝言、と最初は思った。
『もっと傍にいられると思ってた』
ただ、眉間を寄せて紡がれる言葉が引っ掛かる。
『ヒール、履かないよ、…次、観覧車』
『一緒に行ってみたかったの』
『死んでも愛してる…ジン…』
そして、とうとう確信した。
ジン。と呼び掛けながら、彼女は腕を弱々しくこちらに伸ばす。
それから。
『最期まで、一緒にいてくれて、ありがとう』
と。
ゾワゾワと胸を、背中を這いずるのは。
彼女を失った時の虚無感。
今、全てを思い出さんとしてる彼女への焦燥。
思い出すな、そんな、苦しい記憶を。
思い出してくれ、俺と、お前が誓った愛を。
差し出される手を強く掴んで、呼び掛ける。
「雨月」
途端、彼女は目を醒ました。
ハッとしたように視線を動かし、それは、俺へと落ち着く。
「思い出したか?」
『え……嘘』
「もしも生まれ変われるなんてことがあるなら、一緒に、ゆっくり生きよう。誓ったろ?俺達を死が別つことはできない。…死んでも愛してる」
『ジン…』
信じられないと、彼女は驚いて。握りしめた指に力が籠る。
「お前が覚えてないのはずっと気になってたが…今日か…」
『…あ、私の、命日』
「そうだ。俺が孤独になった日」
日付だけは覚えていた、今日。
年齢を知らなかったが、こんなに、若く彼女は失われてしまったのか。
「…なあ、婚姻届、今日出そう。お前のいない日が、無くなるように」
『うん。今度はきっと、ジンの最期まで傍にいる』
「きっとじゃねぇ。絶対だ」
ぎゅうっと、強く強く抱き締めて。
痛いよ。と彼女が笑うのさえ愛しかった。
『ふふ、そんなこと言えるくらい、平和に生きてるんだね…私達』
「……」
『現世で私を見つけてくれて、選んでくれてありがとう。愛してる…』
「…ああ、俺もだ」
今度はちゃんと、結婚式挙げてやるからな。
『…ねえ、別に、あの結婚式でも満足だったのよ?』
「…いいんだよ。俺が、したかったんだ。付き合ってくれ」
『………、ありがとう』
彼女のウェディングドレスを何回も選び直して。教会も現地まで何度も足を運んで。
あとは、式をあげるだけ。
先に神父の前で彼女を待てば、ヴェールを被った雨月が進んでくる。
「汝、病めるときも健やかなる時も、死が二人を別つ時まで、愛し合うことを誓いますか?」
神父の問いに、雨月も俺も、息を揃えて答えてしまった。
『「死んでも、愛してる」』
今度はどうか、穏やかな終末を。
Fin