君と
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《君と未だ》
その時は静かに訪れた。
握っている手から、温もりが消えていく。
口から漏れる呼吸が遅くなる。
手首の脈動が弱くなる。
「…雨月」
まだ、聞こえているだろうか。
「愛してた…」
まだ、届くだろうか。
「これからもだ。…ずっと愛してる」
まだ、伝わるだろうか。
「…天国も地獄も信じちゃいないが…お前が地獄行きになったら抗議しろよ。お前は、十分苦しんだし、俺みたいな奴を幸せにしたんだ」
ああ、脈動がなくなる。
「…ああでも、俺は地獄行きだな。お前がいれば、地獄も悪くないだろうが」
ああ、呼吸が止まる。
「向こうでゆっくりしていろ。俺の仕事が終わって、そのときが来て…そうだな、生まれ変わるなんてことがあるなら…」
ああ、温もりが消える。
「その時は、一緒に年を取ろう。もっと、ゆっくり生きよう。…必ず」
こんなに、静かな死があるなんて知らなかった。
こんなに、悲しい死があるなんて知らなかった。
彼女は人生に満足できただろうか。
(俺は…)
一緒に夏祭りに行ってやればよかった。
花見をすればよかった。
海で泳げばよかった。
(お前と…)
もっと話したかった。
もっと笑いたかった。
もっと抱き合いたかった。
もっと……
やりたいこと、してやりたかったこと、してほしかったこと。
数えればきりがなくて。
(生きたかった)
君と…まだ。
一緒にいたかった。
Fin.