君の
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《君の願④》
いつかこんな日が来ると、解ってた。
解っていた、筈だった。
(…赤井、さん)
赤井さんが死んだ。
赤井さんが殺された。
彼はもう、来葉峠から帰って来ない。
なぜならば。
キールが撃ち抜いたからだ。
ジンがそれを命じたからだ。
そして、私が裏切ったから。
解っていた筈だった。
私が身を置いているのは、今も昔も命懸けの場所だって。
解っている筈だった。
"昔"と括ってしまう場所にいる人を、殺すこともあるのだと。
解らされてしまった。
"今"と括られる此処において、殺されることもあるのだと。
「…だから、見なくてもいいと言ったんだ」
『………ごめんなさい』
ジンのポルシェから、キールのチョーカーカメラの動画を見ていた。
キールが身の潔白証明で、"彼"を殺さなければならないのなら。潔白証明をしていない私は、それを見届けることで証明しようとした。
結局、燃え上がる車を見続けることは出来ず、後部座席で踞れば。
トーンを落としたジンの声。
ウォッカは、不思議そうに私とジンを見比べる。
「…?」
「コイツ、未だに銃が使えねぇどころか血も火も怖いんだとよ。画面越しから慣れるとか言ってこのザマだ、これからも大人しく研究室にいるんだな」
ウォッカに当たり障りなく説明して。
口調こそ荒いが、私にも「これからも居ていい」という、遠回しな言葉をくれる。
「…落ち着いたか」
『………うん』
「下手な嘘ついてんじゃねぇよ」
部屋に戻った彼は、コートと帽子を脱いで私に近寄る。
それから、上手く顔を上げられない私を抱き寄せてソファーに座った。
『………私って、本当に厭』
心の中は、焦りと恐怖でぐちゃぐちゃだ。
赤井さんの死を悲しんでいるのは確かだけれど、その次に襲ってくるのは。
ビルの上、700ヤード離れた狙撃で、ジンが撃たれた時のこと。
『…赤井さんの死を悼みながら、ジンが生きてることに安心してる……どっちも裏切ってるみたいで、でも、私はもう戻れなくて………』
赤井さんとの関わりは決して多くなかったのに、こんなに苦しいのは。
彼にだって、大切な人がいただろう、やりたいことがあっただろうと思うから。
赤井さんに指名されてなったペアを、裏切ったことは。優秀な彼には些細な事かもしれないけれど、彼の命を奪う一端にはなってしまっただろう。
でも、あの時裏切らなければ、私はジンを失っていた。
倉庫で取引の待ち合わせをした時や、700ヤード離れたビルの狙撃で。
私を認めて、抱き締めてくれた彼が死んでいた。
ジンの生を願う私は、赤井さんを裏切っていて。
赤井さんの死を悼む私は、ジンをきっと裏切っている。
でも、赤井さんが死んだ以上、私はもうどうあってもFBIには戻れない。
…戻るつもりはないけれど。
「だから、此処に居ろっていってるだろ」
『……っ、ねぇ、本当に居ていいの?私、ジンの役に立てないよ?馬鹿だし、可愛くもない、仕事も出来ない裏切り者で』
「黙れ」
『…!』
「いいか、お前は仕事相手じゃねえし娼婦でもない。人の死を悼んで生を喜べる…優しい感性を持った俺の女だ。勝手に彷徨いて離れるんじゃねえ」
心が迷子になった私を、彼は抱き寄せて、抱き締めて、抱き留めてくれる。
『……っ』
「返事は」
『………は、い』
「クク、律儀に黙るところ、本当にお前は可愛いぜ?」
『っ!』
「可愛くない、ってのは否定してやる。雨月は確かに馬鹿素直で、仕事も不器用だが、それも含めて可愛い。安心しろ」
ああ、本当に。
嘘でもいいと思っていた頃が懐かしい。
今ではもう。
その気持ちが永遠であって欲しいと願っている。
『……うん、信じる。私は私に自信がないけれど、ジンのことは信じてる』
「ああ」
『だから、死なないで。逝くときは、私も連れていってね』
「………ああ」
(…ねえ、いつか組織の目的が果たせたら)
(どころか遠いところで)
(二人っきりで)
(穏やかに暮らしたい)
(そして静かに朽ちて逝きたい)
そう、願ってもいいでしょうか。
─君の願─
想像したくないけれど
最期は 皆 平等に訪れるものだから
fin