君の
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《君の願②》 赤井視点
たとえば。
どこが好きなの?なんて聞かれた時。
多分俺は、"好きだ"と認めるところから始まる。
好きなところを数えて?なんて言われれば。
きっとそれは、答える資格がない。
それでも…というなら
彼女を見ていた、短い時間を思い出す。
髪。目。唇。指。腕。脚。背。声。
どれもこれも、薄ぼんやりして、形を成さない。
………彼女はいつだって、不安げで、怯えていて、揺らいでいた。
そんな彼女との数少ない思い出を、聞いてくれるのならば。
*****************
「シュウ、お昼過ぎにミーティングよ」
「…」
「もう!毎回サボらないでちょうだい」
「あんな意味のない集まりを、ミーティングとは呼ばん。もっとまともな意見とアイデアを纏めろ」
「纏めても従わなかったりひっくり返したりするのはシュウなんだから、最初から居てって言ってるの!」
「俺が最初から意見していても、お前らは賛同しないだろう。時間の無駄だ」
仲間意識の強いジョディと、効率重視の俺はよく衝突していた。
不仲なわけでもなく、それが仕事の妨げになることもなかったが、チームとして動く時は多少苦労するもの。
特に、そういう時の、細やかな雑務。
チームでやれば早い仕事とか、作戦に移る前の下準備とか。
『…』
「手は空いてるか」
『は、はい…』
それを頼むのが、雨月だった。
「自分の業務」というものを持たず、サポートに徹する人材がある程度存在して。そのうちの一人だったから。
中には優秀でエースやジョーカー的な役割をしている奴もいるが、彼女はどちらかというと雑務。
資料整理や終わった事件のファイルを綴じるのが専ら。
勿論捜査や聞き込みも行うけれど、事務処理の方が得意なようだった。
『あの、どのファイルでしょうか?』
「ああ違う。今日はファイル整理じゃない」
『…?』
そんな彼女に、写真の束と新聞の日付が入ったメモを渡す。
「探して欲しい。この人物の名前が新聞にあるかと、写真に写っているかを」
多分、俺しか知らない彼女の得意分野。
アナログでの捜索。
彼女の直向きで地道で辛抱強い仕事の姿勢に、よくあった作業だった。
デジタルでは完全一致しか判定出来ないが、彼女は自信が無いからこそ部分一致を見逃さない。
『すみません、この前頼まれた写真ですが…』
写真を
・本人だと思われる、
・背格好全体が似ている、
・顔立ちが似ている、
・服装が似ている、と分けて。
新聞に目当ての名前は無かったらしく
・名字が同じ、
・名前が同じ、
・名前は不明だが年齢が近い、と分けた。
「………そうか、ご苦労」
それが役に立つこともあるし、無意味なこともある。
実際写真では本人らしい人物が見つかっているから、部分一致はほぼ不要。
ただ、新聞の方では「名前は不明だが年齢が近い」と割り振った人物。これが、目的の人物と同じだったと判明した。
(今更、な)
そう、判明したのは今。
彼女が、FBIを去ってから。
行方を探していた被疑者は、身元不明の遺体として、あの新聞に小さく載っていた。
あの時気付いていれば、捜査に時間も人材も割かずに済んだのに。
(あんな気の遠くなる作業を、文句も言わず)
(寧ろ、仕事が遅いと陰口を叩かれながら)
(…………もっと、言えることがあったのに)
思い出す度に、胸を埋めるのは後悔だ。
恋愛感情や、人としての好意に気づいたのは、彼女への未練を実感してから。
ずっと気になっていた。
ずっと近づきたかった。
ずっと、あの泣きそうな横顔を盗み見ていた。
ずっと、笑って欲しいと願っていた。
(何もかも、遅すぎる)
俺は、君の不安を、君の焦りを、君の孤独を、君の努力を………知っていた。
それなのに、何もしなかった。
だから。
─君の笑顔─
~当たり前の様なものを 俺は知らない~
(今君が笑えているのなら、それでいい)
(そんな綺麗事に歯軋りしている)
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