君の
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《君の願①》 ジン視点
たとえば。
どこが好き?なんて聞かれた時。
多分俺は、「さあ?」とはぐらかす。
好きなところを数えろ、なんて言われれば。
ひっそりと、彼女を脳裏に描くだろう。
髪。目。唇。指。腕。脚。背。声。名。
まだ聞く気なら、続きを。
******************
─君の項─
彼女は髪を伸ばさない。
肩で切り揃えられた黒髪を、染めることもしない。
『…癖毛だから、伸ばせないの。手先も不器用だし、お手入れもお洒落も上手に出来なくて』
眉を下げて唇を尖らせた彼女はそう言った。
それを責めようだとか蔑もうだとか、そういう話じゃない。
その切り揃えられた黒髪を後ろから見た時、髪の分目から後項が覗くのが好きだって話。
ジャパンエロチズムとでもいうのか、オープンでも派手でもない僅かな露出に色気を感じる瞬間だった。
彼女はよく、ベルモットを引き合いに出しては『私、色気もないし女の魅力ないから』と落ち込むが、ベクトルが違うだけだ。彼女にも、女性らしさや色香は存在する。
「…」
急にそんなことを思ったのは、彼女がソファーでうたた寝をしていたからだ。
座ったまま、うつらうつらと船を漕ぐ彼女を後ろから見下ろせば。
短い髪は頚骨を頂に左右に分かれており、黒髪に白い素肌が透けている。
それが、なんだかとても。
綺麗だと思った。
「…」
もう少し、眺めていようか。
ああでも、その骨筋を撫でてしまいたい。
そしたらきっと、彼女は驚いて飛び起きる。
それから振り向いて、『ジン』と柔らかく嬉しそうに呼び掛けるだろう。
それも、悪くない。
悪くない、が。
「雨月、」
その、無防備な項に、唇を寄せるのはどうだろう。
『…っ?ジン…?』
振り返れないよう、後ろから抱き締めて。
戸惑う彼女の首筋に、尚もキスをする。
『…ふ、ふふ、くすぐったい』
身を捩る彼女の声は、やはり柔らかく、嬉しそうだ。
肩を震わせて、その振動が髪を揺らして、そこから垣間見える首筋…なんて堂々巡り。
「………こんなとこで寝るな、風邪引くぞ」
区切りを。
と、その首筋をするりと撫でて離れれば。
『前からもハグしてくれなきゃ嫌』
彼女はクルリと振り向いて腕を伸ばす。
「…ったく。最近おねだり覚えやがって」
その腕に応えて、今度は正面から首から肩にかけて顔を埋めることになった。
~いっそ口痕でもつけてやろうか~
(その手折れそうな細さに)
(幾度欲情したことやら)
─君の匂─
不思議なことがある。
雨月は俺に向かって、よく
『同じシャンプーなのに、ジンの髪の方が甘くていい匂いがする』
と言うのだ。
それは、自分の匂いは解らないからじゃないか?とも思ったんだが…
最近それを実感している。
雨月に借りたボディークリームを掬って、手から腕に塗っていた時。
いや、借りたというか、使ってみてと押し付けられたのだけれど。
(…あいつ、こんな匂いだっただろうか)
ふと、疑問を覚えた。
『ね。いい匂いでしょ?』
そう言って抱きついてくる彼女は、確かにいい匂いがする。
「…悪くはないな」
安らぐというか、落ち着く。
甘いとか爽やかとか、そういうんじゃなくて。
花とかミルクとか蜂蜜とも違う。
ミントやレモンやハーブなんかでもない。
単純な話。
要するに、彼女の匂いが好きなのだ。
彼女もきっと、俺の匂いが好き。
(…嗅覚なんて、鈍ってると思たんだがな)
普段は鉄錆と火薬ばかり吸っている鼻が、安寧を匂いとして覚えてるなんて。
納得できるようで可笑しな話。
納得できてしまうのは、"思い出す"という行為において嗅覚は五感の中で最も優れているから。
可笑しいのは、俺にも安寧なんて概念があったこと。
「しかしまあ、不思議なもんだ」
『…?』
「お前が使っている時の方が、ずっといい匂いがする」
彼女を抱き寄せて、深く息を吸えば。
クリームの香りとは別に、あの、安らぐ匂い。
『私の気持ち、やっとわかった?』
「そうだな」
~肺まで染める その幽香~
(安息に香りがあるとするならば)
(きっと、この匂いだろう)
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