君の
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《君の幸》
※「君の」番外 ※赤井視点のジン夢
※ジン×ヒロインなので、赤井からすると悲恋
2017/08/10
組織との対決で、ジンの狙撃に成功した。まあ、あの感じでは防犯ベストでも着ていただろうし、死んではいないだろう。
(…アイツ、いなかったな)
屋上に誘き出した奴らは、匆々たる面子だった。…にも関わらず。
組織に寝返った彼女の姿はなかった。
なくて当然だろう。
寝返るような奴を作戦の前線に置くわけがないし、彼女は狙撃や表舞台か苦手だ。
では組織で待機しているのか?
もしくは…
(既に始末されている…か)
その考えに至って、背筋が寒くなる。
自分の意思であれ不本意であれ、所属していた組織を裏切る奴を信用などしない筈。
そう考えれば、有り得る話だ。
(…いや、それは有り得ないと最初に打ち消したな)
彼女は、俺に組織の情報を流すこともなかったし、ジンにFBIの情報を流すこともなかった。
事実、失敗した倉庫での夜も、ジンは現れこそしなかったが、潜伏だと解っている俺を殺すこともしなかった。
彼女が情報を流したとするなら、そこに条件があったはず。…俺を殺さない、という約束が。
それが守られてるとするなら、やはりアイツは彼女を……。
(嗚呼、だめだ)
失ってから。
人のものになってから理解するなんて。
(今更どの口が、好きだった、なんて言えるものか)
FBIのsilver breadも形無しだ。
そんな堂々巡りを、デパートのラウンジでしていた。
買い物に付き合えと連れ出されたが、喧騒に疲れてフラりと抜け出したのだ。
(ジョディも、気を遣ってくれてるのはわかるんだがな)
人選ミス、明美の死、等々で俺が鬱ぎ込んでると思ってくれてのこと。
いい奴なのだ、底抜けに明るくて、感情的だが賢い。
彼女とは正反対だ。
(……またそこに戻ってしまうか)
携帯に届く、どこにいるの!?という騒がしい声を聞き流し、ちょっと休んでるから目ぼしい昼処でも見つけてくれと返して通話を終了する。
きっと、キャメルと呆れながらまだデパートを彷徨くに違いない。
彼女と買い物に行くことがあったなら、こうはならなかっただろう。
(…重症だな)
ラウンジからは、透明な柵なのと端の席だったのもあり、下の階の鞄やアクセサリーを含めた衣類売り場が見渡せる。
そこを往来する、家族連れやカップルを見ては自嘲した。
もう、何年も会っていないのに。
彼女が頭から離れないなんて。
そんなとき、婦人服売り場に、見つけてしまった。
幻覚かとも思う。
でも、見間違えるものか。
(…雨月!)
雰囲気が随分変わった気がする。
いや、黒い地味なスーツしか見たことがなかったせいかもしれないが。
淡い色の、丈の長いスカートを履いた女性…あれは絶対に彼女だ。
(………それに、ジン?)
その彼女の横を歩く、背の高い男。
髪を束ねてこそいるが、銀色の長髪なんてそうはいないだろう。
自身に襲い掛かる感情と情報を、整理するのにとても時間がかかった。
彼女が生きていたことへの安堵
彼女が裏切った事実への怒り
アイツが隣にいる意味への焦り
FBIとして追跡すべきという義務感
本当の経緯を知りたいという興味
いっそ話しかけに行きたい衝動
全てをポーカーフェイスに仕舞い込んで、ぼんやりとその二人組を眺める。
だって、彼女が笑っているのだ。
一度として見たことのない笑顔。
俺の前ではいつだって不安げで、強ばっていたのに。
(嬉しそうに、柔らかな笑い方をするんだな)
秋物の服を買いに来たのか、明るい茶系のワンピースを手に取ると、体に当てながらジンを見て首を傾げる。
奴の表情は見えないが、いい返事を貰えたんだろう。
へにゃり、とでも音の付きそうなくらい目尻を下げて笑っていた。
(あんなにも簡単に、笑えたのか)
それを見てジンは近くの服を漁り、白いブラウスを渡して試着室へと向かわせる。
確かに、秋物にしては袖がなくて寒そうだ。
試着室から出て、再び首を傾げる彼女。
ジンは、やはりいい返事をくれたのだろう。嬉しそうにその場で一周して見せると、早々着替えてレジに持ち込んだ。
どうやらそれで買い物は終わるらしく、出口の方へ向かっていく。
そこまで見て、視線を外した。
追う者も追われる者も視線には敏感な筈なのに、奴が気付かないなんて。
相当彼女に集中していたんだろう。
邪魔することにならなくてよかった、と思った。
たとえ黒に染まっていたとして、誰かの幸せを奪うことは正義じゃない。
まして、彼女の幸せなら尚のこと。
FBIとして正解ではないのかもしれないが、今日はオフだ。
(それが、少しでも償いになるのなら)
俺の影として輔佐に選んでしまったことも、プレッシャーを与えてしまったことも、彼女の不安に寄り添ってやれなかったことも、全部後悔している。
ならば。
(見て、見ぬふりをしようじゃないか)
彼女は、ジンの前では笑えるのだ。
奴の隣でなら幸せになれるのだ。
アイツなら、彼女を大切にしてやれるのだ。
そこが、日の当たらない場所であっても。
いいんだ。これで。
どうせその幸せを奪うのは俺だろうから、少しくらい先伸ばしにしたって構わないだろう。
「あ!シュウやっと見つけた。お昼は上の階のレストランでどう……シュウ?」
「……ああ、すまない」
「顔色悪いわよ、もしかして無理に付き合わせちゃった?」
「いや、気にしないでくれ。ちょっと考え事をしただけなんだ」
「ならいいけど…」
彼らはもう外に出ただろうか。
流石に他の面々がいたら見なかったことにはできないから。
(うまく、逃げ続けてくれ)
「さあ、移動しようか」
「ええ。行きましょ」
ああ、何だかとても疲れた。
願わくば、二度と会わずに済むといい。
君の幸せ
(を、ただ祈っている)
(たとえそれが 愚かな願いであっても)
fin