君の
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《君の誘》11月11日のお菓子
「はい、これあげる」
組織にやっと馴染み始めた私に、ベルモットは箱に入ったお菓子をくれた。
『わ、いいんですか?』
「ええ。今日はそのお菓子の日だからって皆くれるから、少し飽きちゃったのよ」
『ありがとうございます』
そのやり取りを話せば、ジンは煙草の煙を吐きながら嗤う。
「ゴミ箱代わりにされてんじゃねーよ」
『ベルモットは、そういう人じゃないと思うけど…』
「そういう奴だよ、あいつはな」
ジンは、ベルモットは勿論ウォッカやキール達の過去の話はしてくれなかった。
私の過去の話をしないのだから、そのくらいの距離感がいいと判断したらしい。
『あとね、ジンを誘う方法、教えて貰ったの』
箱からお菓子を一本取り出して、口にくわえる。
それから、ちょっと小首を傾げてみた。
「はっ、その程度で誘えると思われてんのか。俺も安いもんだな」
その仕種をみて、今度は煙草を揉み消しながら彼は嗤う。
(…ベルモットなら、これで誘えたのかな)
彼女は女の私ですらうっとりする程の美人だ。
白い肌も、青い目も、ブロンドの髪も、長い脚も。私には無いものばかり。
年を重ねたって、私にあの色気は出せないだろう。
それを思うと、お菓子をくわえた私なんて、凄く子供っぽくて滑稽なんじゃないか。
(いや、滑稽だろうな)
『だね。ごめん、馬鹿なことして』
くわえたお菓子を口から離して。
普通に食べた。
甘いチョコが、気持ちと反しているみたいで一層惨めに感じる。
「…なんか勘違いしてるだろ」
俯いていた私を、ジンは片手で顎を掬い上げるように顔を上げさせて。
はっ、と。短く熱の籠った息を吐いた。
『……っ』
「お前が俺を誘う時はな、余計なものはいらねぇんだよ。まどろっこしいだろ」
『…』
「真に受けて勝手に比較して勘違いして悄気てんじゃねぇよ」
『悄気て、ない』
「はっ、そうかよ。落ち込んでるようならキスでもして慰めてやろうと思ったが…要らないか?」
ジンは全部見透かしたように、吐息が届く距離で優しく笑う。
意地悪を言っているようで、私が本音を言えるように仕向けてくれているんだ。
『…嘘…、…凄く子供っぽく見えて、滑稽な気がして…惨めだなって思った。私、魅力ないしなって…』
でも、まるでキスして欲しいから吐露したみたいだ。なんて、今更恥ずかしい。
まあ、間違ってない。
最初にお菓子に託つけてジンと戯れたいと思ったのは私なんだから。
「…は、勘違いが予想以上過ぎるぞ」
ぎゅうっ、と。
力強く抱きすくめられる。
「あのな、俺はお前が良くてお前を選んだんだ。菓子ひとつで振り回されてお前の価値を下げるな」
それから、約束のキスが降ってきて。
ちゅ。
と、私達には似合わない、可愛い音がした。
「それに、キスするなら菓子なんざ邪魔だろ。確かに悪くはないが…焦らされるのは性に合わねぇ」
『じゃあ、嫌いになったりしてない?』
「くくっ、いや?寧ろそういう行動は好きだぜ?まあ、お前限定だがな」
その台詞に思わず彼の背中に腕を周せば、彼は笑ってまた唇を寄せた。
『私がやるのもジン限定なんだよ?』
「当然だろ。というか、させねぇ」
結局その後も何度もキスを繰り返して。
ポッキーを間に挟む余裕なんてなかった。
(お菓子がなくても)
(きっと君に誘われてただろうし)
君の誘いは何よりも甘くて。
fin