リクエスト1
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《my shy girl》逆裁4時間軸
『ホースケ君、裁判所いきますよ!』
「え!今日裁判ありましたっけ??」
『何言ってるの、依頼が無いときは他の裁判見て勉強しなきゃ!』
「うぅ…」
『返事は?』
「だ、大丈夫です!!」
『はい、では行ってきます』
「行ってきます…」
それが1時間くらい前のことなんだけど。僕はすることもなく、若干のイライラを持って、その時のやり取りを延々と脳内再生していた。
あ、僕は成歩堂龍一。
今はしがないピアニストで、成歩堂なんでも事務所の所長をしてる。
彼らが帰ってくるまで暇だから、ちょっとお喋りにつきあってくれないかな?
1時間前に出ていった二人は新米弁護士の王泥喜ホースケ君と、彼の1年先輩の羽影雨月ちゃん。
ちなみに、雨月ちゃんは僕の恋人なんだよね。…半年くらい前から。
彼女はいい子だよ。優しくて、素直で純粋で。
ただ、際限なく恥ずかしがり屋なんだ。
まあ、そこも可愛いんだけど。
そうだ、彼女との出会いも話そうか。
雨月ちゃんと初めてあったのは1年くらい前、今はない牙琉法律事務所に出向いた時だった。
………………………………………
「今日はなんの用事ですか?」
「ちょっと暇でね」
「生憎私は暇ではないので、適当にお茶を飲んだら帰って貰いますよ」
「冷たいなぁ」
色々と理由をつけては牙琉の所へ来ていた僕は、いつもこんなやり取りだった。
『失礼します、お茶をお持ちしました』
そこに現れたのが雨月ちゃん。
お盆の上に紅茶のポットとティーカップを2つ持って、事務所の中に区切られた応接間へ顔を出した。
「ありがとう。私は仕事があるので、羽影さん、客人の相手をしてもらえますか?」
『え、で、でも』
「彼は暇つぶしに来ているだけなので気軽に話し相手をしていて下さい」
それじゃまた。
牙琉は本当に出ていってしまって。
「えっと…」
急に取り残された僕たちは、そこで始めてちゃんとお互いの顔を見た。
『わ、私、羽影雨月と言います』
緊張したように、でもどこかあどけない笑顔を向けられた瞬間。
一目惚れしてしまった。
「僕は成歩堂龍一、よろしくね」
出来るだけ自然に、優しく笑って自己紹介をした。
まあ、出会いはこんな感じ。
それからたわいもない世間話や、怪しまれない程度にお互いの事を話して。
彼女が今年司法試験を受かったばかりで、僕と10歳くらい離れてる事を知った。
その時気づいたんだけど、雨月ちゃんは僕と目が合わないように必死に視線をそらしていて、不意に目が合うと頬が真っ赤になっていた。
それで、期待を持った僕は通い詰めた訳だよ。
牙琉法律事務所に。
もちろん、牙琉からは疎まれたけどね。
それから半年、王泥喜君を僕の事務所に迎えることになる事件が起きた。
迎えたのは彼だけじゃない。
途方に暮れてた雨月ちゃんも半ば強引に入所してもらった。
『私、まだ何の役にも立てませんが…』
「いいよ、気にしなくて。王泥喜君だって一人より誰か居た方が馴染みやすいだろうし。僕は君が好きだから引っ張りこんだまで」
『えっ…』
もうね、入所1日目から真っ赤。
僕は本気で言ってるんだけど、彼女はそれどころじゃない。
意味が解らないって顔でオロオロしちゃってさ。
「聞こえた?僕は君が好きなんだけど…雨月ちゃんは?」
畳みかける、そんなつもりはないんだけど、彼女にはそう思えたんじゃないかな。
耳まで真っ赤にして、泣きそうな顔でさ。
首を縦に振ったわけ。
「よろしくね」
『…は、はぃ』
握手しようと思って手を差し出したんだけど、雨月ちゃんの手、すっごく熱くて。
本当可愛いかったなぁ。
あ、今も可愛いよ?
彼女の恥ずかしがり屋は筋金入りでね、名前を呼んだり、目が合うだけで顔が赤くなる。
ついこの前、握手以外で始めて手を繋いだんだけど、りんごみたいになってた。
だから、彼女から声をかけられる事もそんなになくて、名前を呼ばれたことすらない。
いつだって"成歩堂さん"もしくは"所長"なんて呼ばれる。
僕がイライラしてた理由わかった?
そうなんだよね、王泥喜君は仕事中も"ホースケ君"って呼ばれてて、僕がプライベートでも"成歩堂さん"って呼ばれてるのはさ、おかしいと思うんだよ。
……まあ、彼女の恥ずかしがり屋を考慮するとさ。まだ無理かな、とも思う。
"成歩堂さん"って呼び掛けるだけでも緊張したように声が震えてて、握りこぶし作ってるくらいだから。
でも、好きな子ほど苛めたくなるというか。
僕が我慢してる分は困らせてもいいんじゃないかな、とも思う。
………………………………………
「ただ今帰りました!」
王泥喜君の大声に、はっと我に帰った。
どうやら戻ったみたいだ。
『ホースケ君、耳元で大きな声出さないでよ。…ただいま、です』
「ん、お帰り」
僕と目が合った彼女はちょっと目を逸らしながら小さく帰宅を告げて。
返事をしながらさっきまでのイライラを隠すように笑えば、また彼女の頬が染まっていった。
「あれ、みぬきちゃんまだ帰ってないんですか?」
「ああ…そういえば遅いね」
「そういえばって…」
「ほら、うち放任主義だから」
そこまで言って、ちょっとした悪知恵を働かす。
「にしても、最近物騒だから…王泥喜君、迎えに行ってくれないかな?」
「え、」
『わ、私行ってきましょうか?』
知恵が働くのは彼女も一緒。
ここで王泥喜君が出ていったら、僕と二人っきりになるのは明白だ。
「うーん。女の子よりも、何かあったらとりあえず叫べる彼の方がいいかな、って」
「…もう、行けばいいんですね!行・け・ば!」
王泥喜君も、僕の意図に気づいたみたいで。
呆れたように今入ったばかりの玄関からそそくさと出ていった。
『…』
「…座らないの?」
『え…ぁ…』
多分、彼女は座る場所に困ってるんだろう。
この事務所にはキャスターの付いた椅子が2つと、二人がけのソファーがあって、僕はソファーに座ってる。
ここで、少し離れたところにある椅子に座るのは不自然だし、彼女の事だから、僕の隣に来るのは恥ずかしいんだろう。
「おいで」
隣の空いたスペースを軽く叩きながら彼女を誘うと、怖ず怖ず、そんな感じの雰囲気で浅く座った。
出来るだけ間を取ろうとする彼女に、くっつくように座り直せば、
『ち…近いです…』
真っ赤な顔で、消え入りそうに言われた。
「僕に近づかれるの、嫌?」
『違っ…』
いつもはポケットの中にある手を出して、彼女の手に絡ませる。
やっぱり、りんごみたいになって、耳まで真っ赤になった。
「僕はもっと、雨月に近づきたい」
そして、真っ赤な耳に口を近づけて呟けば、その肩はビクッと震えた。
『だって…恥ずかし…』
「王泥喜君とは近くに居られるのに?」
『ぅ…』
彼女達は、みぬきも含めて兄弟みたいな距離感で過ごしているし、多少のスキンシップだってある。
まあ、実際兄弟感覚なのは解っているけれど。
それに嫉妬しないほど、僕は大人じゃない。
「僕の事嫌い?」
まともに返事が出来ない彼女に、意地悪をする。
すかさず、必死に首を横に振るあたりは可愛い。
でも、
「じゃあ、どうして?」
聞き方を変えてしまうと、彼女はフリーズしてしまう。
『……解ってるのに、聞かないで下さい』
「答えてよ、君の声で聴きたいから」
『……っ、意地悪』
繋いでいない手で彼女の髪をそっと撫でて、横の髪を耳にかけた。
「…早く答えないと、もっと恥ずかしいと思うけどな」
『きゃ…っ』
そのままするりと腕を動かして、後ろから抱きしめる。
「ぅ、ぁ、成歩堂さん…っ」
『ん?顔が見えない方が言いやすいかな、と思ったんだけど?』
彼女の肩に顎を乗せて、逃げようとよじられる体を抱きしめる。
『うぅ…』
「あれ、向かいあってた方が言いやすかったかな?」
体を反転させようとすれば、腕を掴まれて。
彼女も決心がついたのかな、と、少し意地悪をやめてみる。
「雨月、僕が意地悪なのは、君が好きだからだよ」
『…っ』
救いを出しているようで、誘導尋問のそれ。
彼女の口からは聞いた事のない2文字を引き出す為の罠。
『わ、私だって、恥ずかしいのは、成歩堂さんがっ…』
もう少し。
もう少しなのに中々出てこない。
後ろからだって解る、彼女の中の葛藤がいじらしくて、本当に可愛い。
『成歩堂さんが………す…好き、だから…っ』
お腹に回していた腕を、ギュッと捕まれて。
目尻に涙を溜めながら言われた。
言われた、っていうか、小さな声の割には叫ぶような勢いがあって。
りんごなんてもんじゃなく、茹蛸のように真っ赤になった彼女を、今度こそ体を反転させて正面から抱きしめた。
「ありがとう」
言わせた。って感じが残るけど、やっぱり嬉しくて自然と口を出た言葉。
「ごめんね、泣かすつもりはなかったんだ」
『い、いえ…私も、いつかちゃんと言わなきゃって、思ってたから…』
互いの肩に自分の顎を預ける体制の今、お互いに表情は見えないけど。
触れ合ってる頬からどんどん熱が伝わってくる。
『…ごめんなさい』
「何が?」
『成歩堂さん、さっき不機嫌でしたよね?』
ああ、そういえば。
不完全とはいえ自己消化した事があった。
結局それとは違う言葉が聞けて満足して、すっかり忘れてたけど。
『私が、ホースケ君って呼ぶから…』
「へぇー、気づいてたんだ」
『もう少し…待って貰えませんか』
「……」
『いつか必ず…きっと、名前で呼びますから……』
"もう少し、もう少しだけ"
段々小さくなっていく声に、彼女の精一杯の勇気だった事を知る。
「必ず、ね。そんなに長くは待てない気がするけど」
答えながらも、どんな顔で話していたんだろうと好奇心が湧いた。
体を離して彼女を見れば、予想外にも、さっきより頬の赤みは引いていて。
なんて思ったのも束の間。
目が合ったとたんカアッと赤く染まっていった。
「雨月、真っ赤」
指摘したら、ふい、と顔を背けられてしまって。
その頬を撫でながら、もう一度僕の方を向かせた。
「…すごく可愛い」
思わず微笑んだ、というかにやけたというか、綻んだというか。
そんな表情で素直に感想を漏らしたんだけど。
『~っ///』
目を一瞬大きく開けて、湯気が出るんじゃないかってくらい上気した後。
なんと彼女は気絶した。
「え、ちょ、雨月!?」
どうやら彼女のキャパシティーには収まらなかったらしい。
「パパー、ただいま!」
「ただいまです」
「お帰り、みぬき。王泥喜君も」
「あれ?雨月ちゃんどうしたんですか??」
「ああ…熱中症だったみたい」
「へぇー」
僕たちの間で嘘は通らないから。
みぬきは意味ありげに、王泥喜君は苦々しく、僕は楽しげに。
とりあえず笑っていた。
ここからまた半年くらいたって。
彼女は漸く
『龍一さん』
と僕を呼んだ。
「雨月の少しは随分長いね」
『うぅ…』
「じゃあ、待たせてくれた理由を聞かせてくれないかな」
『え、』
「言えないの?なら意地悪してでも聞きださないと…」
『あ、ま、待って下さいっ…!』
「うん、待つから早く」
『……だって』
"龍一さん"は
いつだって呼べるけど
"成歩堂さん"は
結婚したら呼べないじゃないですか
「…」
『ほ、ほら。同じ苗字になっちゃったら…』
「雨月、付き合い始めた頃からそんな事考えてたの?」
『!!』
「それで、"成歩堂さん"は十分に呼び終わったんだ?」
『…』
「まだ少し早いかな、って思ってたんだけど。雨月さえいいなら」
結婚しようか
『~っ///』
「え、ちょ、雨月!?」
いつぞやと同じ反応。
真っ赤になった彼女は、どこか幸せそうに気を失った。
(これは下手したら…)
(式中にも失神しそうだな)
Fin.