リクエスト1
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《mild desire》
コンコンッ
執務室の扉をノックしたのは、とても見慣れた人物で、ここではあまり会わない人物だった。
「っ!?…羽影刑事、何故ここに?」
『糸鋸先輩が風邪をひいたので、変わりに派遣されました。何かご不満で?』
「だ、誰も不満等と言ってないだろう…」
この羽影刑事は恋人。そして、転校先の家が隣で、高校まで一緒だった幼なじみ。
大学は違ったが、検事局に勤めて始めて数年後。
"羽影刑事は中々仕事ができるよ"
という話を聞き、まさかと思ったが、そのまさかだった。
仕事場まで同じと誰が想像するだろうか…
それを思えば今まで担当にならなかったのが不思議なくらいだ。
『仕事はありますか?』
「いや、今は特にない」
露骨に嫌そうな顔をした彼女にこちらが参ってしまう。
(昔は、こうではなかったな…)
幼い頃も高校時代も、どちらかといえば引っ込み思案で、不満を顔に出したりしない、大人しい性格だった。
『なーんだ。御剣君のところなら手応えのある事件扱えると思ったのに…』
「…不満なのはそちらのようだな」
『別に不満はないよ、今日だけでも担当が御剣君なのはラッキーだし』
鈴の様に笑う彼女は、昔と変わらない。
『仕事も一緒だなんて、私は嬉しいんだけど?御剣君あんまり嬉しそうじゃないから』
「公私混同はどうかと思うが…」
『そういうと思ったー。扱ってる事件ないなら休めばいいのに…ただでさえ休暇とれないんだから』
そうもいかない、と返そうとしたら彼女の電話がなった。
『はい、羽影………えぇ………そうですか、解りました』
パタン、と閉じられた携帯は乱暴にポケットに捩込まれる。
『残念。一緒に仕事するか休暇にするかできると思ったのに…呼びだされちゃった』
「事件か?」
『まあね、私の担当の検事さんは仕事できないから。できないのを私のせいにするんだから、呼ばなきゃいいのにさ』
彼女は困ったように笑った。私は昔から、この笑みに弱い。
「雨月、携帯を貸して欲しい」
『何するの?』
手渡された携帯でリダイアルを押す。
「こちら御剣だ。羽影刑事をお借りしたい、こちらの刑事は生憎病欠で……ええ。では」
電話を切って彼女に返した。
「行かなくていい、今日の担当は私だ」
『…公私混同はしないっていったのに』
「何か不満が?」
『…ないです』
また、鈴の様な笑い声に胸を撫で下ろす。
あの困った様な笑み。
彼女が何かを抱えている時に見せるものだ。
「異動願いは出せないのか?」
『出したいのは山々だけどさ…』
肩を竦めて笑う顔は、依然として眉が下がっている。
『ほら、私仕事できるでしょ?できる女は場所なんて選ばないの』
彼女の推察力、観察力は著しい検挙率を誇る。
ただ、控えめな性格故にハズレくじを引くことも少なくない。
『私くらいしか、あの人の下では働けないわ』
彼女は…どんな時も、損な役回りは自分で請け負う。人の嫌がる仕事を進んでする。
「……君は…」
一人で掃除している姿もよく見た。目立たなくて面倒な仕事も熟していた。
「……いつもそうだな」
誰がやらなくとも、いつも君が。
『必要なの、そういう人も』
「だが…」
『私はいいの。御剣君が知っていてくれるってだけで、気にかけてくれてるってだけで、いくらでも頑張れるから』
ふわり。
柔らかく微笑んだ彼女。
「…」
『御剣君には、素直に言えるんだけどね』
悪戯っ子の様な目をした雨月の額に、軽く口づける。一瞬驚いた彼女も、微笑んで応えた。
ピリリッ ピリリッ
「…」
『…』
「…御剣だ。…あぁ、了解した」
ピッ
「羽影刑事、同行頂きたい。…事件だ」
『っ!喜んで!!』
「じ、事件を喜ぶなっ」
『違うよ!喜んで同行するって言ってるの!』
現場での聞き込み、包囲網、逃走経路の推測。
久しぶりに見た雨月の仕事姿は、学生時代と変わらず輝くもので。
「弱ったな…」
『検事、何か難点が?』
「…いや」
『では、引き続きアリバイの裏付けを…』
ああ、本当に弱った。
(あの頃のように)
(君の懸命で直向きな横顔を)
(ずっと眺めていたいだなんて)
mild desire
(淑やかな欲求)
Fin.
『やっぱり御剣君の扱う事件は違うね!やり甲斐があるよ』
「…そういえば、そちらの電話は何の事件だったのだ?あっさり引き下がってくれたが…」
『あぁ、あれ?ゴキ○リ退治』
「!?」
『あの人、大の虫嫌いでさ。蜘蛛の巣とかあると現場にこれないくらい』
「…早急に異動願いを出したまえっ!」
End