水っぽいお題2
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《泪色》
どんなに嘆こうが喚こうが、変わらないものがあると知った。
その悔しさを、唇を噛む程度じゃやりきれないと知った。
『……やっぱり、私じゃダメなんだ』
やっぱり。という言葉を使うことで自分を慰めてみる。
わかってたじゃないか、何を今さら傷ついているんだ…と。
ただ、それで乗り越えられるものでもなくて。
『龍一君…好きだったのに…っ』
大学に入って、人より遅めの初恋だった。
人見知りがたたって友達すらできなかった私に、笑いかけてくれた人。
話しかけてくれた人。
話を聞いてくれた人。
優しくしてくれた人。
そんな、成歩堂龍一君に恋をして。
ついさっき、彼に恋人が出来たと知った。
(仕方ない。私は、行動しなかったもの)
(仕方ない。私は、可愛くないんだもの)
(仕方ない。私は、、、)
イーゼルとキャンバスに向き直って、パレットと絵筆を構えた。
芸術家を目指すなら、負の感情は昇華させよ。
私の初じめての恋と、初めての失恋だ。
絵に残さなくてどうするんだ。
ハラハラと零れる泪で、視界が歪む。
絵の具も薄まる。
けど、描くしかない。
描くことしか、できない。
徹夜で描き上がったキャンバスの上は。
彼に出会った日の眩しい空の青と
青春をときめいた光のような白と
それを失った空虚な灰色が滲んでいた。
実際、滲んだ視界で描いたから絵そのものも滲んで。
幸せで、不確かで、煌めいて、脆い印象を与える。
この絵は、大賞こそ受賞しなかったけれど。
特別賞に入選して、大学では話題になった。
「聞いたよ雨月ちゃん!入選おめでとう」
『あ…りがと、龍一君』
「あの青、凄く綺麗だね。僕、もとから青色すきなんだけど、益々好きになった」
『そうなんだ…』
「うん。あ、ごめんもう行くね!それだけ伝えたくて、おめでとう!」
……駆けていく龍一君が、誰かと待ち合わせしてるのを知っている。
……欠けていく自分の心をそっと撫でて、私はまた絵筆を取る。
……描くしか、出来ないもの。
どんなに泪したって、もう私のものにはならない。
遠くに行ってしまう彼を、美術室の窓から眺めながら絵の具を掬った。
私のキャンバスは、いつも泪色だ。
fin