水っぽいお題2
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
《垂涎》
垂涎。とは良く言ったものだ。
涎が出るほどほしい。
喉から手が出るほどほしい。
そんな執着心が芽生えてからは、それのことしか考えられなくなる。
『……御剣検事?眉間寄ってますよ』
「…。それはいつものことだ」
『いつも以上に、です』
だから、目の前に″それ″があると堪える為に眉間が一層寄るのだ。
そして、元凶が心配してくれる。
(顔を覗き込む…というだけの仕草がこんなに可愛いものだったとは)
垂涎の品…もとい人。
検察補佐の雨月くん。
年下で可愛らしく、おっとりしているが決断力のある女性だ。
『お疲れですか?仕事も急ぎではありませんし、今日は早めに帰られては?』
「………いや、やれるうちにやれることをしておきたいのでな。明日急な仕事が無いとは限らん」
『御剣検事は真面目ですね』
「…面白味のない男だろう?」
『まさか。堅実な方って素敵ですよ』
柔和に笑う彼女は、そう返答する。
(…ならば、その指環の番の相手は)
(さぞ堅実で素敵な輩なのだろうな)
左手の薬指に、銀色を輝かせて。
ひどく解りやすい風習だ。
既婚者は、左手の薬指を見れば解る。
彼女は、誰かのものなのだと、嫌がおうでも気づかされる。
……私のものではないのだと、突き付けられてしまう。
『…………これ、そんなに気になります?』
じっと、その指環を眺めてしまってからハッとした。
聞きたくないから触れなかったのに、彼女に悟られて、語られてしまってはどうしようもないじゃないか。
「……いや、その…」
『これ、男避けなんです。面白いもので、これをしてるだけで嫌なナンパが随分減りました』
「…男、避け?」
『おっとりしてるせいですかねぇ、色んな人に声をかけられて困っていたのですが、これをしてからは殆どないんですよ。兄に相談して正解でした』
「…では、結婚していないのか?」
『はい。結婚どころか恋人もいませんよ』
私の苦悩を、誰か返してはくれないか。
「……そうか、では君を食事に誘ってもいいのだな」
『え?』
「なんでもない。…そうだな、君の言う通り急ぎの仕事もない。雨月も今日は上がりたまえ。そして、良ければ夕食に付き合ってくれないか。美味しいデザートと紅茶が売りの店がある」
『わあ!是非!!御剣検事とご飯なんて初めてですね』
誰のせいで…と思ったが口にしなかった。
今口を開いたら、本当に喉から手が出て貪ってしまいそうなくらいなのだ。
それを抑えるように、小さく舌舐めずりをして。
「………ああ、見ただけで涎が出る」
『…?御剣検事がそこまで言うと、期待値上がりますねぇ』
どうやってその指環を上書きしようか。
今度はそればかり考えている私など気にもせず、彼女はまた柔らかに笑うのだ。
fin