水っぽいお題2
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
清
《清々しいほど》
彼にとって、私とはなんなのだろう。
『迅、私は貴方に生きて欲しい』
「……生憎、判決は死刑だったな」
『迅の自供のせいでね。なんで殺ってもない罪を嘯いたの?』
「はっ、俺が殺ってない証拠はあんのかよ」
『心音の証言』
「!」
『あの子が、迅は殺ってないって心が叫んでる…って証言したじゃない。あの子が嘘を吐いてるか迅が嘘を吐いてるか…ねえ?どっちが嘘つきなの?』
「………」
『迅ってさ、不利になると黙りだよね』
「……っ」
『…、わかった。私の"生きて"よりあの子の為に"死ぬ"ことの方が貴方にとって有益だってことは』
ガラス1枚向こう。
疲れからか目元に隈を作った彼は、私が知ってる顔貌とは違い。
優しそうな視線は鋭い眼光になってしまっていて。
「………」
(ああ、今の問いにも沈黙なのか)
『迅。サヨナラをしよう』
「…」
『そうすれば、貴方に生きてとせがんでいる女は…婚約者じゃなくて赤の他人になる。その方が、貴方の心は軽くなるでしょう?』
婚約者。だったのだ、私。
お互いに恋をして、プロポーズされて。
いつかは…と幸せを温めていた。
「…そうだな、罪人の俺と居るよりは幸せになれるだろ」
『私のせいにしないで頂戴。私は…迅さえいれば、そこが地獄でも幸せになれる覚悟と自信があったからプロポーズを受けたの。…っ、私と、生きない道を選んだのは貴方よ、迅』
彼は、殺していない。
別に、殺人犯でも構わないくらいには惚れ込んでいた。
彼は唯一無二だから。
でも、彼は死刑宣告を受け入れ、再審も申し立てなかった。
私と、生きようとはしてくれなかった。
私がどんなに泣いても。
「……」
『迅。愛してる。愛してた。今も、これからも、愛してる。…そういう、優しすぎるところも大好きだったけど…今はその優しさが憎いわ。…その心、私に向けたものじゃないんだもの』
「…すまないな」
『謝るの?止めてよ、謝るくらいなら…私と…生きてよ……っ』
透明な壁が、彼に触れさせてくれない。
零れていく涙を拭ってくれる指もない。
私の、噛み殺し切れない嗚咽の中。
彼は重々しく深呼吸をして、口を開く。
「……愛してる…だから、婚約を破棄させてくれ。…サヨナラだ」
涙で霞んだ視界は、彼の表情を映してはくれなかった。
代わりに、カチャカチャと遠退く鎖の音が、彼の退室を知らせていて。
『迅!』
本当に、サヨナラ…なんだね。
彼にとって、私とは。
きっときっと、大切なものだったのだと思う。
あの子と、天秤に掛けたら同じ重さの。
(あの子を守る為に死んで、私を守る為に突き放して…バカみたい)
彼は、大切なものを守る為に全て投げ捨ててしまうつもりなのだ。
私なら、その選択を理解してくれると信じて。
私なら、彼が居なくても一人で幸せになれると願って。
(本当に、バカ)
私は彼の理解者でありたいし、彼の考えはよく解る。
でも、彼は。私のことを理解しきれてはいなかったようだ。
(私はね、地獄まで付いてくって決めたの)
私にとって、彼の居ない世界なんて意味をなさない。
彼の罪を晴らせない司法の世界は憎しみの対象ですらある。
こんな場所で、幸せになれと?
貴方に罪を被せたまま、のうのうと生きてる犯人と同じ世界で生きろと?
冗談にも程がある。
(だから、落ちる時は一緒よ…迅)
(貴方が寂しくないように、怖くないように)
(先にいって、待ってるわ)
‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡
清々しい程の笑顔で 彼女は旅立った
‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡
Fin