水っぽいお題2
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
淀
《淀みを晴らすのは》
「ド腐れ弁護士」
彼は、私をそう呼んだ。
『……ナユタ検事』
「どうしましたか?」
『………いえ、何も』
私が弁護士になった理由を彼に語ったところで、彼が弁護士を嫌う理由を知らない以上、あの文言は取り消されない。
「不思議な人ですね」
笑う彼はとても美しく、利発的で、儚げな印象さえ受けるというのに。
『ナユタさん程ではありません』
「…そうですか?雨月さんには言われたくないのですが」
プライベートで会う時は柔和で穏やかな声で私の名前を呼んでくれるというのに。
「だって、また弁護席に立つのでしょう?」
『当たり前です、私には…私の信念がありますから』
「…やれやれ、また拙僧が説法を唱えなければなりませんね」
弁護士の私を見る目は、冷たくて色褪せた視線を投げる。
『ナユタ検事の説法は私には届きませんよ。でも……』
「……?」
『ナユタさんを見ていると、弁護士を辞めたくなります』
彼は、私の意図に気づけていないのか、切れ長な目をゆっくり瞬きした。
微かな沈黙は、私に続きを求めるものだろう。
『ナユタさんを好きな私は、ナユタ検事の言葉に耐えられないから。どちらも同じ人なのに、別人に見ようとしてしまうくらい辛く感じるのです。今の私と弁護士の私を切り離すことはできないのに……切り離せないからこそ、辞めてしまいたくなるくらい…。好きなんですよ』
何だって、好きになどなってしまったのか。
高々数ヶ月、彼に日本を案内しただけじゃないか。
「………やれやれ、本当に弁護士というものは…脳味噌も脳漿も腐りきっているのでしょうね」
『…』
自覚してるから、反論もできなかった。
冤罪をかけられた私を助けてくれた弁護士を追って弁護士になった私の信念は、こんなことで揺らいではいけないのに。
彼が好きだなんて匂わせたこともない私が急にそんなことを言い出して、馬鹿だと思われても仕方ない。
「…何故、そんなに悩むほど貴女は拙僧に好意をよせるのです?大事な信念なのだから、拙僧を憎み離れればよいものを」
『憎めないのです、貴方が優しくて、高潔で、素敵な人なのはよくわかっています。それに私は…貶されるの慣れてますから』
「…」
『好きな理由やきっかけなんて、語ることは出来ません。それくらい自然に惹かれたから。ただ…ナユタさんから離れられないのは私の信念からでしょうね』
困っている人は、絶対助ける。
『ナユタさんは、苦しんでいませんか?貴方の信念は、私より淀んでいませんか?』
「…貴女には、淀んで見えるのですか?」
『はい。貫きたいものを諦めたのは、貴方のように見えるのです』
「…ふふ、ド腐れ弁護士も、目はまだ腐ってないようですね。けど……」
彼は珍しく続きを言い淀んで。
結局それを言葉にはしなかった。
「法廷でまた会いましょう。優れた盾と矛でも、雌雄を決する時は来るのですから」
にこりと。
綺麗な笑顔で彼は立ち去ってしまって。
私の告白はなかったことにされた。
(でも、法廷に…弁護士として立っていい…ってことでしょ?)
(私を優れた…と思ってくれてるのでしょう?)
淀んだままの告白の答え。
淀んで空回る私の心。
淀んで進めない貴方の信念。
(きっと、晴らして見せるから)
Fin