水っぽいお題2
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港
《港のアデリーヌ》
閉店後のボルシチに、ピアノの演奏が響いている。
営業中は鳴らないか、酷い音を振り撒くピアノだが、演奏者が変われば別物である。
寧ろ、こちらを営業中にするべきだろう。
『成歩堂君、練習する気ないでしょ』
「ないよ?」
『じゃあなんで私を講師として呼ぶわけ?現金じゃないけど月謝払ってるし、勿体ないよ』
目の前にいるダメな大人の権化みたいな、ニット帽にサンダルの男。
学生時代からの友人で、元弁護士。
なんでこんなところにいるのかなんて、理由は知っている。
いや、知っているからこそ、ピアノを習う必要がないと言えるのだ。
「…まあ、理由をつけて君と会おうって感じかな。講師とか、名目ないとこんなおじさんと関わりなくなっちゃうでしょ」
『地味に私もオバサンって言ってるの?ってか、そんな事で友達やめたりしないわよ』
「あ、同い年だっけ。君は全然年取らないね」
純朴だった青年は、いつの間にか飄々としたおじさんになり。月謝、という名の食事に連れていってくれる。
連れ添う私もおばさんなんだろうか。
『…まだ学生に見えるわけ?』
「その曲を聞くとね。大学生に戻った気分になるよ、君はその時と同じように綺麗だし、僕もあの時みたいに頑張ろうって思う」
私達は、大学の音楽室で会った。失恋真っ只中の成歩堂君が、音楽室で縮こまっていて。気づかなかった私がそのままピアノの練習を始めたのだ。
『…じゃあ、もうひとふんばりしてね。成歩堂君』
「うん。ああ、ねぇ。その曲の名前、教えてよ」
『今まで知らないでリクエストしてたの?この曲は…』
港のアデリーヌ
(きっと名前はまた忘れてしまうけど)
(彼女がずっと弾いてくれれば)
(それでいい)
Fin.