水っぽいお題2
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浮
《浮かばれない》
※死ネタ
※しかし暗くない
※幽霊が普通にいる
『大地君、久し振り』
「久し振りー、夏以来だね」
『ねー。結構涼しくなったよ』
「みたいだね。この前はキャミソールでも暑いって言ってたのに、もう長袖だもんな」
縁側に座る私の横に、どこからともなく現れた大地君は座った。
『大地君は涼しいとかないの?』
「うーん…殆ど感じないな。夏もそうだったし、そういうものかも」
『幽霊って便利だね』
そう、この大地君という人は1年前にとある事件で亡くなった。
突然の恋人の死から、考える事を放棄した私はワーカーホリック寸前で。
無理矢理長期のお盆休暇をとらされたのがこの前の夏。
"お盆で魂が帰ってきてるなら、声くらい聞かせてよ…大地君"
何もしない時間が不安過ぎてポツリと呟けば。
"雨月、聞こえる?あと、見えるかな?"
縁側から声がして、彼がそこに座っていた。
座っていた、というか今もだけど、座る格好をして浮かんでいる。
彼曰く、線香の煙と私の声に呼ばれて、実家ではなく私の家に来てしまったらしい。
「便利だけど…生身じゃないとやっぱり触れないからな」
『あ、そっか。でもね、私、大地君が横にいると暖かい気がするよ』
触ろうとするとすり抜けてしまうから、添えるように、床についた手に手を重ねる。
「…うん、俺も暖かい気がする」
彼は感覚を失っているけれど、記憶にあるものを記憶通りに感じることができるらしい。
それに、
『お萩、手作りしたんだよ。食べてみて』
「ありがとう。…うん、美味しい」
直接口にいれるわけではないけど、食べ物に込められた想いを味として感じられるらしかった。
『よかった。お砂糖足りなくなっちゃったんだけど、愛だけはいっぱいに入ってるよ』
「すぐわかったよ。匂いからして甘いもんな」
くすぐったそうに笑う大地君が可愛くて、このすり抜けてしまう体さえなければ、死んでいるなんて信じられない。
『…秋の彼岸が終わったら春まで会えないのかぁ。冬にも会えるといいのに』
「あ、それ。次会うとき言おうと思ってたんだ。親友の王泥喜って話したことあったろ?あいつから聞いたんだけど…」
彼の話によると、親友の知り合いに霊媒師さんがいて。
霊媒師さんを介せば死人と会話ができるというものだった。
『じゃあ、その人のところに行けば大地君に会えるってこと?』
「うん。でも、結構山奥みたいだから、気をつけてね」
『大丈夫!大地君に会うためならそのくらい平気!しかも、その人の体を介すってことは触れるんでしょ?一緒に食べたかったものとか、一緒に触りたかったもの全部もってくから!』
「気持ちで十分嬉しいから。霊媒師のことも考えてやれよ?」
嬉しそうに。でもちょっとだけ顔をひきつらせて笑った彼がやっぱり愛おしくて。
小さくうなずき返した。
『あー…大地君、私が天寿全うするまで待っててね?そしたら一緒に生まれ変わろ?』
「勿論だよ。だから、雨月は現世でも幸せになって。約束な」
宙に浮く
浮かばれない君の
浮わつかない約束
Fin.
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