水っぽいお題
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注
《注射》
『はい、一柳弓彦さんですね。予防摂取の注射を致しますので、上着を脱いで頂けますか?』
「お、おう」
『では腕に注射致しますので、袖を失礼しますね』
「…な…なあ、」
抗体検査にひっかかったオレは、病院で予防摂取を受けることになった。
正直検査で採血されるのだって、痛くて嫌だったのに、
"予防摂取は皮下注射だからね、もっと痛いよ"
なんてからかわれて今に至る。
『どうかされました?』
「…あ、いやなんでもない」
痛くないようにしてくれ、なんて頼めっこない。もう大人になるんだから。
『手を腰に当てて貰って…はい、チクっとしますね』
「……っ……」
痛ぇ!堪えなきゃ、こんなことで泣くわけには…
『だ、大丈夫ですか?手先が痺れたりしませんか?』
「…平気だよ」
『…』
多分、オレくらいの歳で、涙をこらえるくらい痛がってるのは、珍しいんだろう。
名札に"羽影"と書かれた看護師が、困ったような表情で注射器を片付け始めた。
『一柳さん、痛かったですね、お疲れ様でした。頑張りましたね』
「…!べ、別に痛くなんて…まあ、頑張ったけど」
『…、クスクス。一柳くん、注射で泣かなくなったね』
「えっ?」
『小学生の時は注射器見るだけで泣いてたのに』
そう言って笑う看護師の口元に、ちらりと見えた八重歯。そして、羽影という苗字。
「…まさかお前、中3の時転校していった…」
『あはは、覚えててくれたんだ。嬉しい』
注射の痕に小さな絆創膏を貼りながら、彼女はまた笑う。
やっぱり、あの羽影雨月だ。
「そっか、看護師になったんだ」
『そう。一柳くんは検事だっけ』
さりげなく捲っていた袖を降ろされて。
"30分は待合室にいて下さいね、ワクチンのアレルギーがあったりするので"
そんな説明を受けた。
「…羽影は、看護師似合ってるな」
『ありがとう、一柳くんだって、検事似合ってると思うよ?』
「まだまだなんだ…最近気付いたけどな」
『…じゃあさ』
待合室まで送ってくれた彼女は今まで通り微笑みながら。
『似合うようになるまで進むしかないね。一柳くんはいつも頑張ってるから、きっと大丈夫だよ』
と続けた。
「…羽影、俺さ」
『ん?』
「やっぱりお前のこと好きだ」
小学校も一緒で、いつも励ましながら背中を押してくれた彼女。
厳しくもあり優しくもある彼女が、ずっと大好きだった。
『…な……』
「俺、本物のイチリュウになったら、もう一度告白するから!それまで絶対に止まらないからな!」
目を見開いて固まってしまった彼女に、今更恥ずかしさが込み上げてきて。
「じゃ、じゃあなっ!」
慌てて待合室の奥へと逃げた。
(……あ、連絡先とか、何も知らない)
(あいつ受付もやってるから会計の時に会うじゃん…)
その後で、色々な失敗に気づく。
『…一柳さん、受付へ』
「…」
『こちらお会計と、領収書になります』
「…ん」
『はい、丁度お預かりします。では、また。お待ちしています』
そうして病院を出て家につく頃。
(病院って、"お待ちしています"なんていうかな)
やっと気付いた違和感の正体。
そして、違和感の原因に気付いたのは、家に入って何気なく領収書を見た時だった。
『一柳くんが、検事として自分を認められるまで、待ってるよ』
注射
が巡り会わせた二人
Fin