水っぽいお題
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
滑
《滑稽》
世の中は、くだらないことが多すぎる。
名誉や権力に始まり、流行りや世間体。
だが、多くの人間がくだらないことに振り回されて生きている。
『おはようございます、牙琉先生』
「おはよう、羽影さん」
私も同じ。
強いていえば振り回されてはいない。私が選びとっているのだ。
弁護士という地位も、それに伴う権力や名声も。
すべて私の意志で、私の力で手に入れてきたもの。
『昨日の裁判お疲れ様でした。流石ですね、先生、大逆転でした』
「検察側の詰めが甘かったのでしょうね。証拠品の見落としをするなんて」
『あれは、私も気づきませんでしたよ』
「…助手がそんなことでは困りますね」
『しょ、精進します』
そんな私が思う、一番くだらない生き方は、恋愛に振り回される生き方だ。
恋だの愛だの、私には到底理解できなかった。
この、助手に会うまでは。
「…それで?」
『あっ!今日はレーズンのパウンドケーキです』
「では休憩の時に頂きましょう」
勝訴の度に菓子を手作りしてくる彼女は、私がくだらないと思っている人間とは少し違った。
名誉や権力、流行りや世間体なんて興味もない。振り回されることも選びとることもしないのだ。
彼女はよくも悪くも自己中心的で、マイペース。外聞や流行りなんてものには揺らぎもしない。
「ケーキがこれだけ美味しく焼けるのに、なぜ弁護の腕が上がらないのでしょうね」
くだらないもので溢れた世界でも自分の歩みを変えない彼女は、評価というものもさして気にしない。
『回数ですかね。ケーキなんて今まで数えきれない程焼いてますから。弁護もそのうち上手くなります』
「"そのうち"の間は私は苦労し続けるのですね」
『よろしくお願いします、先生』
小さな厭味も、この調子で笑って返す。
私が断らないと知ってか知らずか、無邪気な瞳のまま。
『要するに、場数を踏めば上手くなると思うんです。だから、次の裁判は私にやらせて下さい。ね?』
「…仕方ないですね。私の付き添いが条件ですよ」
『ありがとうございます』
彼女が微笑む度に、無邪気な瞳を向ける度に。
抱きしめたくなる程愛しさと、吐き気がする程の葛藤を感じる。
この私が
たった一人の女性に
躍らされている
それはまるで
滑稽
な恋のワルツ
(こんなに好きなのに)
(認めたくない)
Fin.