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《貴方のサンタに》ゴドー
(クリスマス一色…か。)
街を行き交う人々の声を耳に挟んで、その言葉を反芻した。
実際に色が一つな訳じゃない。雰囲気や飾り付けが一様になっている、というだけ。
強いて色で表すなら、赤と緑。足すならば白。そんな感じだろう。
尤も、自分の視界には赤しか存在しない。それ故に、赤を認識することはできない。
(クリスマスも真夏も、同じ色だ)
随分捻くれた考えだと思う。
そんな思考回路に自嘲していれば、頭一つ低い隣から声が聞こえてくる。
『クリスマス一色かぁ』
どうやら自分と同じ言葉を反芻したようだ。
ただ、自分とは違ってどこか楽しそうに笑っている。
「もし本当に一つの色に混ぜたら、酷い色になりそうだな」
隣の彼女に非はない。
返答が少し冷たくなってしまったのは自己嫌悪からだったし、その返答にまた自己嫌悪になる。
どう考えても彼女に非はないのだ。
例えば自分が、彼女と同じ視界を楽しめないことに苛立っていても。
『…まあねー。絵の具みたいに混ぜたら、そりゃあ変だけどさ。なんていうの、バランス?』
「疑問形で返されても困るぜ」
『うんとね、私はゴドーを見てるとクリスマスだな…って思うのよ』
「…?」
考えながら話しをしているようで、"言葉を紡ぐ"というのがぴったりだ。
決してそれが、彼女の思考を理解するヒントになる訳ではないけれど。
『"白い"髪と、"赤い"マスクと、"緑"のシャツ…でしょ?クリスマスを体言してるっていうか…』
「ククッ…馬鹿にしてるのかい、コネコちゃん?」
『全然?私はゴドーが思ってるほど、その髪もマスクも、嫌いじゃないよ』
「…」
『あー…むしろ好き、かな。髪の色は肌の色とすっごく合って格好いいし。マスクも格好いいよ。ヒーローみたいで』
「ヒーロー…か」
余りに似合わなくて、思わず笑ってしまった。
彼女に他意はない。
ないことは解っているけれど。
お姫様のピンチに眠り込んでいたヒーローなんて、格好悪すぎる。
『ヒーローにはさ、可愛いヒロインが必要だと思うんだよね』
「…どうみても、羽影はお姫様じゃねぇな」
『お姫様だけがヒロインじゃないでしょ?ヒーローと一緒に戦う、可愛くて強いヒロインもいいじゃない?』
「…そういうのを、じゃじゃ馬、っていうんだぜ」
得意げに笑った羽影の頭を雑に撫でた。
髪型が崩れるとか、街中で何すんのだとか、小言が聞こえてきたが聞き流して先に進む。
一緒に戦うヒロイン。
それはあながち間違いじゃない。
検察側に立つようになってから、彼女と事件を追ったこともある。
白地の赤が見えないと気づかれてからはさりげなく教えてくれるし、自分が助言をすることだってある。
それがいつ恋になったのかは覚えていないが、卑屈になる自分を引っ張りあげてくれる彼女に感謝しているのは事実だ。
『…あ、でもせっかくだから、今日はヒーローじゃなくてサンタクロースになって欲しい』
「おいおい、サンタはいい子にしかこねぇんだぜ?」
『えー、私結構いい子だと思うんだけどな。それに、恋人がサンタクロースって歌あるじゃない?』
「いい子はプレゼントをねだったりしないんだろうぜ。そもそも、サンタに頼む程欲しいものでもあるのかい?」
茶化すような、子供みたいに馬鹿なテンションで話を進める羽影にはいい加減なれたのかもしれない。
俺をヒーローにしたりサンタにしたり。
自分はヒロインになったり子供になったり。
とにかく忙しい。
『サンタクロースじゃなきゃ叶えられないから』
目当ての店の前で足を止めて、彼女はこちらを見上げる。
新しいカフェができて。
そこに俺はコーヒーを飲みに、彼女はケーキを食べに来たのだ。
『私はね、ゴドーの笑顔と幸せが欲しい』
「…」
『私がどれだけ貴方を好きになっても、貴方に笑って欲しいと願っても、貴方は楽しそうに笑わない。私がお菓子を作っても、貴方のコーヒーが美味しいと言っても、幸せを感じてくれてるのか解らない』
そこまで言って羽影は視線を足元に落とした。
周りの雑踏やクリスマスソングがうるさいほどなのに、彼女の声だけが妙に頭に響いてくる。
「…それを、サンタに頼もうっていうのかい?」
『…、だね。それも可笑しな話だね。ごめん、忘れて。やっぱり私がゴドーを幸せにしなきゃね!』
行こう。
と、無理矢理作ったような笑顔で店に引っ張る彼女についていった。
いい子、なのだろう。
俺が沈みかければその細い腕で懸命に引き上げようとしてくれるのだから。
『…えっと、ショートケーキとガトーショコラ。ドリンクはミルクティーで』
「この店で一番苦いコーヒーを」
店に入ってそれぞれ注文した。
無言がちになる自分に、彼女はたわいもないことを笑顔で話す。
近所の猫が可愛いだとか、今朝の寝癖が酷かったとか、本当にくだらない内容を楽しげに話して聞かせるのだ。
その笑顔に、小さな罪悪感を覚えるようになったのは最近のこと。
自分が彼女と"恋人"という関係になったのは、純粋な好意だけでないと気づいてしまったから。
自己嫌悪や罪悪感に埋もれそうな自分に、溢れんばかりの好意をよせてくれる彼女に甘えているだけなのだ。
羽影が好きなのは事実なのに、声をかけたり触れたりしようとすると、違う女が頭を過ぎる。
その瞬間が嫌で、自分から好意を表現したことはないに等しかった。
(…不安に思われて当然だな)
運ばれてきたケーキに目を輝かせる羽影に、少しの安堵を覚える。
きっと、彼女が好きだと言ってくれたマスクのおかげで、彼女は気づきもしないだろう。
『ゴドー、ケーキ美味しいよ』
「よかったな。コーヒーも中々だぜ」
『へー、ゴドーが褒めるってことは本当に美味しいんだね。一口もらってもいい?』
「コネコちゃんはブラック飲めないんだろ?」
『…苦かったらケーキ食べるから大丈夫』
自分が好むのは苦みの強いものだから、飲めやしないのは解っている。
それでも、強請る彼女にソーサーに乗せたカップを差し出す。
『…っ、苦っ!!』
「ククッ、言ったろ」
『うぅ…ゴドーのコーヒーのがずっと美味しいよ』
「それはミルクと砂糖が入ってるからな」
ケーキを食べ、ミルクティーを飲み。顔をしかめる羽影につい笑った。
これでも、彼女は楽しそうに見えないというのだろうか。
『…甘くてもゴドーのがきっと美味しいよ。あ、お礼にゴドーにも一口ケーキあげる。ほら』
フォークに刺さる一口分のショートケーキ。
それを差し出して彼女は笑う。
俺が断るか、フォークをうけとるかすると思っているのだろう。
「…」
『…っ!?ちょ…』
その思考を裏切るように、フォークを握っている手を掴んで少し引っ張った。
そこへ顔を近づけて生クリームの多いそれを口に入れる。
「…甘すぎねぇかい?」
『今、ゴドーのが甘いと思う』
照れたような苦笑いを浮かべる彼女に、何となく優越感を覚える。
やっぱり彼女は、自分を好きでいてくれるんだと解るからか。
「…まあ、羽影のケーキの方が美味いな」
『ゴドー好みに作ってるからでしょ…でも、あ、ありがとう』
驚いたように、恥ずかしそうに、はにかんで笑う。
自分は彼女のそういう姿が好きなのかもしれない。
「俺じゃなくて…羽影がサンタだな」
『へ?何で?』
「…俺に幸せをくれたから」
美味しいケーキを焼けて
自分の煎れたコーヒーを美味いと言ってくれて
はにかむ姿が可愛くて
自分の幸せを願ってくれる
…そんな恋人がいる
身にあまるってもんだ。
『…私は、今の言葉で幸せになれた。ゴドーもサンタだよ』
ふにゃり。
緩んだように彼女は笑った。
『ふふ、歌の通りだね』
「ククッ、お互いにな」
『…ね、じゃあ歌の通りに連れ去ってよ』
「…嗚呼…何処へでも、つれてってやるさ」
俺は彼女の
彼女は俺の
サンタクロース
(俺も"いい子"で、)
(いいってことかい?)
Fin.
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