夕神詰め合わせ
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《Heart Attack》
別に、男なんていらないと思ってた。
子どもとか結婚も興味なかったし、オシャレとか化粧とかも面倒臭さかった。
どうせ付き合うなら、今の化粧っ気もないような私を好きになってくれる人でいいや、なんて。
でもそれは、恋というものをしたことがなかっただけだと知った。
「羽影、捜査はどうだ」
『残念ながら進展なしです、夕神検事』
「そうか。凶器だけでも見つかりゃァな…まだ起訴できるってもんだが」
元囚人であり検事である彼、夕神迅。は、刑事である私の上司だったりする。
『検事、自分はもう一度被疑者の自宅を捜索します。許可を』
「そうだな。お前の目でもう一度見てくれ」
彼は私の捜査力に一目置いてくれている。
実際、
『夕神検事、フローリングの板が剥がれ、隙間に刃物が』
「でかした。鑑識にまわせ」
と、この回でも真実に貢献したわけだ。
自分の力を認めてくれ、楽しげに笑う姿に惹かれた。
この歳で初恋なんて笑われるかもしれないけれど、今まで、こんな素敵な人は周りにいなかったんだ。
「羽影、捜査が進展した祝いだ。打ち上げ程豪勢にゃいかないが、一杯くらい奢ってやらァ」
『いいんですか?お言葉に甘えて』
顔は多分あまり笑えてなかったと思う。
でも、心の中ではガッツポーズしてた。
居酒屋とかだろうけど、憧れの夕神検事とご飯にいけるなんて。
「悪いな、屋台で」
『奇遇ですね。自分もここはよく寄りますよ』
しょっぱいのが売りのラーメン屋。ちょっと変わってるが粋な親父さん。
大衆むけのラーメン屋台だ。
「お、今日は男連れか。やっと女らしくなって俺は嬉しいよ」
『やめてよ親父さん、仕事の上司みたいな人だ』
「ああ?あー…そういや最近見た顔だ」
「……」
『夕神検事?』
「あれだろ、お前が女だと思わなかったんだろ」
「…」
よくあること、ではあった。
中性的な顔立ち。
凹凸の少ない体。
一人称、"自分"。
加えて短く切った髪は特別手入れもされてなく、化粧も殆どしてない。
職業柄アクセサリーはしないし、スーツもカジュアルでパンツタイプ。
だとしても。
それってつまり。
恋愛の土俵に立ててない、ということ。
(予想以上に深傷だな)
『よく間違われますよ。自分、色気も洒落気もないですから』
「いや、失礼だったな」
『気にしないで下さい。それより、飲みに誘ってくれたことのが嬉しいんで』
そう。男だと思ったから飲みに誘ってくれたんだ。
真面目な彼が、一対一の呑みなんてしてくれる訳がない。
多分、私が"気にしてない""誘ってくれたのが嬉しい"なんていったからか。
今までとなんら変わりない日々を送っている。
いや、女性扱いされるほうが少ないから、いざされたら気まずいし気持ち悪いとは思うけど。
(オシャレ、してみようかな)
刑事という立場上、華やかなオシャレができるわけじゃない。でも。
そんなことを考えて一ヶ月。
やっぱり彼の笑顔や声にときめかされっぱなしの私。
「この前の事件、やっと片付いたな。さァ、打ち上げ行くか」
『是非!』
女だって分かってても一対一で誘ってくれたのは、脈あり?
それとも、意識されてない?
呑んでわかった答は、後者。
ラーメン屋ではないけど、がっつり居酒屋。
確かに居酒屋もよくいくけど、好きな女を連れていく場所じゃないよね。
なんて、事件とは関係なく自棄のみを始めてしまったのだ。
「…おい、飲み過ぎだ」
『いえ、自分酒強いんで』
「顔真っ赤だぞ」
『それはそうでしょう、好きな人と飲んでれば顔くらい赤くなりますよ』
「…何言ってんだ」
自棄、というのは恐ろしいものだ。意識こそあったものの、ここまできたら言うしかないと思ってしまった。
『そのままですよ。私、貴方に恋してるんです。この歳になってやっと初恋です。おかげでアプローチの仕方が全然解らないでいるのに貴方は私を男だと思ってたんですか。これでもレディーススーツ着てるんですよ。あの後は少しでも女に見えるようにと思って…シャンプー変えたりコンディショナー使ったり、色付きのリップクリーム使ったり、今までしたことのないようなマニキュアまで使って…気づかなかったでしょう?』
泣きそうな顔をしている、と思ったのは夕神の勘違いではない。実際泣きそうだったのだ。ここまでしておいてやっぱり振り向かせることはできないのかと。
「…道理で」
『?』
「甘い匂いがすると思ったらシャンプーか。肌の色の割に口が赤いのもリップクリームで、爪が妙に綺麗なのはマニキュアって奴なのか」
『…っ』
ぐい飲みを片手にずいと近づいた彼に、少しばかりドキリとした。
…獲物を狙う鷹のような目をしていたから。
「確かに性別の見分けがつかねェ奴だとは思ってたよ。だが、人として気に入ってた。そんで、ラーメン屋の親父に女だって聞いてから、意識して見るようになっちまった」
『…』
「なんせ女っ気のねェ務所にいたんでな、リップクリームだのマニキュアだのなんて頭が回らなかったぜ。なんでこんな綺麗な奴、気づかなかったんだろうとは思ったが」
クツクツと笑う彼に、怒りややる瀬なさは薄らいでいった。
「そこまでさせた責任はとってやらァ」
『え?』
「なんだ?やっぱり酔ってんのか?今まで通りの羽影に戻れ、それでも俺はお前に恋をする」
望んでいた展開なのに、ときめかされすぎた私はキャパシティオーバーで。
「お前が女になるのは、俺の前だけで十分だ」
心臓発作を起こしそうです。
Fin